このブログを読んでいただいた方から、時々「ジャズに興味があるけれど、何から勉強したら良いかわからないので良い教則本を教えてください」という質問をいただくことがあります。
それらのご質問にお答えしようと思い、自分は本当の初心者の頃、どんな本を参考にしてきたんだっけ、と考えてはみるのですが、「これと、これと、これを読めばいいよ!」という簡単な答えがなかなか出てこないので悩んでいました。
「初心者向け」を謳ういくつかの教則本に、私はむしろ非常に失望してきた記憶があります。それらの本の内容が良くなかったからだ、とは決して言いません。ただ、それらの本たちは、部分的には参考になることもあったのですが、単純に当時の私のニーズには合っていなかったのでした。
ジャズに興味がある。そのなんとも言えないリズムに、グルーヴに、美しいハーモニーに魅了されている。そして1日に何時間でも練習する情熱もある。極端な話、人生において音楽以外に重要なものは何もない。そんな方々に対して私が言えるのは、非常に凡庸なのですが、次の一言です。
「教則本を買うのではなく、生身の人間に習ったほうがいい。」
ジャズは教則本ではなく、まず生身の人間から教わったほうが良いのです。「尊敬する先生との1時間のレッスン」は、「教則本の内容を100時間弾く」ことよりもずっと価値のあるものです。勿論、都市部に住んでいない方はそう簡単に行かないかもしれません。その場合はオンラインのレッスンでも良いと思います。
もし時間とお金と情熱があるのなら、生身のギタリストに、対面レッスンを受けることをおすすめします。月4回のオンラインレッスンより、月1回東京や大阪に電車や新幹線で通ったほうが良いです。では誰のレッスンを受けたら良いのでしょうか? この答えは、私は1つしかないと思っています。それは、
「有名な先生ではなく、あなたがその人のように弾きたい、その人のプレイに感動した、まさにその人に習いに行く」
ということです。ジャズの世界は、幸か不幸か小さく狭いところがあります。誰でも知っている世界的に通用する一流プレイヤーからのレッスンを受けることも、情熱がありさえすれば可能なのです。
マイルス・デイヴィスやポール・モチアンのバンドでプレイしていたギタリスト本人や、彼等と友達のように一緒に演奏していたようなすごいギタリストから直接のレッスンを受けることもできるのです。心から望みさえすれば。それがジャズのすごいところです。
外国から日本の素晴らしいギタリストのもとに飛行機に乗ってレッスンを受けに来る人もいます。反対に、日本から外国に渡航して有名プロのレッスンを受けに行くこともできるくらいです。本当にジャズを学びたいという情熱があり、それが相手に伝われば、無下に断られることもそうそうないでしょう。
そしてジャズを学ぶことに対して、そこまでの情熱は持っていない、なんとなくジャズの「テイスト」を味わってみたい、教則本だけでなんとか格好が付くくらいにはなりたい、という方には、「それは難しいんじゃないか」と書いておきたいと思います。
人前でそれなりに弾ける人は、やっぱり1日平均3〜5時間程度の練習を最低数年は続けたことがある人々という感じがします。そして自分で教則本や参考書を買ったりはするのですが、やはり誰かに習ったことのある人がほとんどです。
未成年者の方・大学生の方は大学の「ジャズ研究会」に顔を出してみるのも良いと思います。多くの「ジャズ研」はその大学の学生以外の参加も許容するはずです。とにかくキーワードは「生身の人間」から学び、「生身の人間」と一緒に演奏することです。セッションすることです。
セッションというと敷居が高いかもしれませんが、ブルースを1曲だけ覚えて「参戦」することから始めて良いのです。FかBbのブルース1曲の「テーマ」をきっちり覚える。そして自分にアドリブ・ソロが回ってきたら、ブルース・スケール1発、マイナー・ペンタ1発でも良いので、何コーラスかアドリブしてみます。
それは既に立派なジャズのはじまりです。そこで自分の演奏には何かが足りない、自分はジャズっぽくない、そう思ったら、その時はじめて教則本を楽器屋さんで立ち読みして、良いと思ったものを買うのが良いと思います。
教則本の類は、あくまで「補助」として存在すると思います。生身の先生からの「レッスン」、生身の人間との「セッション」の効果は、本当にすごいものがあるのですが、実は「それだけで十分」でもなく、自分自身で様々な研究をしていく必要があります。
その段階ではじめて活躍するのが「教則本」だったり、「耳コピーすること」だと思います。
そして生身の人間に習いはじめたら、「その先生に全てを期待しない」ことも大事です。「ジャズ」といっても幅が相当あります。最高にグルーヴィーなビバップを弾く先生だからといって、ファンキーなカッティングが出来るとは限りません。
個人的には「その人がオールラウンダーだから習いに行く」より「あの人のあれがたまらなく好きだ!」という気持ちで習いに行くと良いと思います。有名だから、何でもできるから、という選び方もあるのかもしれませんが、私個人の考えは、あくまで「自分が好きなプレイヤーに習いに行く」ことです。