ギタリストに限らず、ジャズ初心者は「弾きすぎてしまう」ことが多いと思います。十分に休まない。音を出していない時間がなんか怖い。
休符(音のない空間)を発音と等しい重みを持つものとして扱い、「間」や「呼吸」のある演奏をしているギタリストを見ると、テクニック的に難しいことをやっていなくても「こ、この人は只者ではない!」と思いますよね。ビル・フリゼールなどを聴いているとよくそう思います。
勿論、意図的に弾きまくる、あるいは吹きまくるパット・マルティーノや一時期のジョン・コルトレーンのスタイル等はまた別の話。彼等が音で埋め尽くすのは、空間・沈黙を恐れているからではないはず。
「空間を恐れる・弾きすぎてしまう」という現象は、入門段階のジャズプレイヤーの中でもギタリストとピアニストに顕著であるように思うのですが、よくよく考えてみると楽器の性質と密接な関係があるのではないかと思いました。
ここではギターに話を絞りますが、例えばジャズ・ギタリストで、4/4 120bpmで、全音符のロングトーンで2小節間音を伸ばす、という発想をする人はものすごく少ないのではないでしょうか。
サックスやトランペットの奏者には「お前は何を言っているんだ」と思われるかもしれないのですが、ギターには発音後の音量をコントロールする術は基本的にはなく、ピッキングした音はどんどん減衰していくのみ。ホーン奏者のように音量を一定に保ったり、クレッシェンドすることは本来できません。
ボリューム・ポットを使ったバイオリン奏法やボリューム・ペダルを使用することで近いことはできますが、楽器の基本的な性質として、ギター(ピアノ・ドラム・ビブラホンもそう)はロングトーンが苦手なものだと思います。
これがディストーションで歪ませたヘヴィ・メタルのギターだったら、もっとサステインを稼げるのでロングトーン的な表現はジャズよりも頻出するような気がします(最近聴いていないので確信はありませんが)。
ジャズ・ギタリストのソロで、2小節の長きにわたり全音符のロングトーンを放つというのは、楽器の性質上、少し厳しいところがある。カート・ローゼンウィンケルはこういう時、自分の声でサステインを補っていた(!)ことがあるそうですが、これは彼がサックス奏者をよく研究していたからでしょう。
ジャズ・ギタリストの場合、つまり楽器の性質もあって長玉を使いづらいということがあり、その結果空間を恐れたような、つい弾きすぎるプレイ、息継ぎのないプレイになりがちなのではないかなと思ったのでした。
ではどんな風にこの傾向を改善できるか。2小節や4小節ずっとロングトーンというのは難しいとしても、せめて符点2分音符+4分休符くらいの表現は怖がらないようにしたい。
ホーン奏者の演奏をたくさん聴くのが良いのは当然ですが、「楽器の選択」も実は重要になってくるのではないかと思います。ギターにはサステインの長いタイプ、短いタイプがあり、同じギターでもセッティングによって変わってきます。例えば以下のように。
↑ サステインが長い
- ソリッドギター(ストラトキャスター・レスポール・テレキャスター等)
- セミアコ(セミホロウボディ。ES-335等センターブロックの入ったもの)
- フルアコ(センターブロックなし)+ 金属製サドル
- フルアコ(センターブロックなし)+ 木製サドル
↓ サステインが短い
ボディに空洞がないソリッドはサステインが一番長いですよね。次にセンターブロックの入ったセミアコ。中が完全に空洞のフルアコになるとだいぶ減りますが、同じフルアコでも金属製サドルのほうが木製サドルよりもサステインはやや伸びると思います。
楽器の選択が実は「その人のフレージング」に大きい影響を及ぼしていることもあるのではないでしょうか。ストレートアヘッドな、古き良きモダン・ジャズを演奏するギタリストにとってサステインがありすぎると迷惑なこともあるでしょう。一方現代的なスタイルの人はより多くのサステインを欲するかもしれない。
「ジャズをやりたいなら、とりあえず箱物(空洞のあるギター)を買うといいよ」とよく言われますが、自分が演奏したいジャズはどんなものなのかをよく考えて決めたほうが良いでしょう。フルアコではできない表現というのもあります(勿論その逆も)。
また、ジャズのジャム・セッションでソリッドギターを持ってくると白い目で見られる、といった話をよく耳にするのですが、それはどうでしょう。おかしな話だと思います。バラードなどで素晴らしいロングトーンを耳にできるかもしれないじゃないですか!!(希望的観測)
話を戻すと、もし「サステインが短いというギターの性質」が原因で、つい弾きすぎてしまう人の場合、そのウッドサドルのES-175を一旦置き、ストラトで長玉を弾く練習などすると良い効果があったりするのではないかと思ったのでした。
実際に自分の音楽でロングトーンを使用することがないとしても、休むこと・間・休符の重みはよりよく体感できると思います。
勿論Ibanez GB-10のようなサステインの短いギターでボボボボボン、と8分音符を弾くのはとっても気持ちいいですよね。それはそれとして、「意に反して」弾きすぎているな、と感じている時は、ホーンプレイヤーに学ぶ、違う種類の楽器を試してみる、というのはかなりの良薬になるのではないかと思います。