理論というものに対して時に異様なほどの嫌悪や敵対心を見せる人がいます。
理論は音楽の敵だ、理論を勉強するとロクなことがない、後付けの説明で何がわかる、という風に、もう親の仇のように理論を敵視する人に(特にネット上で)出会すことがあります。
またジャズに興味がないブルース・ロック系のギタリストとジャズの話になると「ああ、ジャズって小難しい理論を使って変わった音弾くんですよね」ということを言われ、「ああ、この人にとって『ジャズ=難しい理論=わざとヘンな音を弾く音楽』という図式が出来上がっているんだ」と悲しくなることもあります。
そもそもジャズの習得にあたって必要なハーモニー関連の理論は難解なものでしょうか。項目は多いけれど丁寧に考える必要はあっても決して難しくはないと思います。「理論は難しい」と考えている人は、丁寧に考えるのが面倒なだけで、実際は人並みの知性があればジャズの和声理論は理解できるものだと思います。
そのジャズの和声理論にはどういうものがあるか。大きい項目で考えれば以下のようなものでしょうか。
- 機能和声におけるドニック・サブドミナント(マイナー)・ドミナントという3つの状態を理解すること
- 上のT, SD, SDM, Dそれぞれについて、どのような代理関係がありうるかを把握すること(例:SDMならbIIV7とIVm7が置換可能等)
- 転調という概念の理解
- チャーチ・モードの理解
- マイナー・スケール群の各モードの理解(例:メロディック・マイナーの第7モードがオルタードである等)
- シンメトリック・スケール群の理解(何処で使えるかも含めて)
- ボイシングの理解(転回形、Drop、クラスター、オープントライアド等)
- 機能和声に縛られないインターバリック・ストラクチャーの理解(4度堆積をはじめとするコンスタント・インターバルによる自由な構造)
- 伝統的なフレーズ等における語法の理解(バップにおけるダブル・クロマチック・アプローチやビバップスケール等)
基本的にはこのくらいでしょうか(これとは別に奏法上の問題がありますがそれは別の話)。もっとあるとは思いますが、いずれにしても無限にあるわけではないし、理解するだけなら誰にもできる内容のはず(使えるようになるには何年も何十年もかかるものがあるとしても。インターバリック系は特に時間が必要)。
理論は何のためにあるか。音楽学者ではなくプレイヤーの立場からすると、それはやはり「新しい可能性に触れる」ためにあると思います。「正しく演奏」するためでも「間違った音を弾かない」ためでもない。
自分の想像力と創造力を制限するためにではなく、むしろそれらを解放するために理論がある。と個人的には考えています。理論を勉強してマイナスになることは何もないはず。理論を学べば自動的に演奏がうまくなるわけは勿論ないですが、「理論は助けてくれる」ことがやはり多いと感じます。