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ジャズ・ジャイアンツ養成ギター

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その日、飛雄馬は父・一徹に1本のギターを与えられた。パット・メセニーが使うシンセギターのようなSGタイプのソリッド・ボディーで、ボディ下側に小さいスイッチがいくつも並んでいる。

「飛雄馬よ、お前は今日からこのギターで練習するのだ。お前はジャイアンツを……ジャズ・ジャイアンツを目指すのじゃ!」
「と、父ちゃん……!!」

厳しい父からの思いがけない贈り物に飛雄馬は歓喜した。しかし早速押弦してみると、指先の異様な感覚に背筋が凍ったのだった。

「……1弦が巻き弦? 2弦も、3弦も…… 全部巻き弦……?」

「ガッハッハッ、そうじゃ。1弦から0.22, 0.24, 0.32, 0.42, 0.52, 0.56, 全部巻き弦の特注セットじゃ。換えは1年分買っておいたから切れても心配しなくていい」

「ううっ、と、父ちゃん……」

飛雄馬の顔から、笑みが消えた。その後しばらく、姉の明子は柱の影からジャズギターの練習に励む飛雄馬の姿を観察していた。飛雄馬はギターにプリセットされている「チャーリー・パーカー名曲集」のカラオケを使って昼も夜もなく練習するのだった。

ーー数日後ーー

ちゃぶ台の前にあぐらをかいて新聞を読む一徹に明子は訴えた。

「お父ちゃん、飛雄馬が練習中に時々悲鳴をあげているわ。電流が走ったみたいに、ギャッ、とか、ウッ、とか悲鳴をあげるのよ。あのギター、弦が太いだけじゃなくて、他にも何か意地悪な仕掛けがあるんでしょう」

「ふん、おおかたダウンビート上で外れた音でも弾いたんじゃろう。IIIm7で考えもなしに♮9など弾くとそうなる。あのギターはそういう基本から外れた音を出すと、電流が流れて感電するようにできておる

「父ちゃん、な、なんてこと! それじゃあ飛雄馬の音楽性も何もないじゃないの。飛雄馬は最近、IIIm7上でIのフレーズ、しかもIMaj7#5のフレーズを弾いたりすることもあるの、それじゃ感電しっぱなしじゃないの!」

「ふん!」一徹は不満そうに立ち上がった。

「あいつめ、生意気にそんなことをやるようになったか」

飛雄馬の部屋の襖をガラッと開けて一徹は言った。

「飛雄馬! そのいっぱい並んでるボタンの中の『C』というボタンを押してみろ。それでもう一回 “Dewey Square” を頭から弾いてみろ」

飛雄馬は言われるがままに “Dewey Square” を弾きはじめた。そしてアドリブ時、最初のEbMaj7でいつものようにFトライアドの入ったお気に入りのフレーズを弾いたが、今回は身体にビリッという電流は流れないのだった。

「『C』はContemporaryのCじゃ。これからはそのコンテンポラリー・モードで練習しても良かろう」

「と、父ちゃん… !!」

一徹はその夜、おでん屋で頬を赤くし良い感じに酔っていた。

「ふん、あいつめ、いつのまにかメロディック・マイナーで弾くようになっているとはのう。飛雄馬よ、俺のような古いタイプの人間を越えてゆけ。思うがままに、感じるがままに、弾くがいいーー」


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