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ひらめきと間違いの発生原理は同じ

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むかし読んだ脳科学関連の本で、コンピューターと人間では記憶の様態が異なる、という話を読んだことがあります。

その本によるとコンピューターの世界では、1つの情報は1つの場所に収納される。同じアドレスに複数の情報を保存することは基本的にできない。1つの引き出しに1つの情報を保存する。1部屋に1人。そんな感じらしい。少なくとも伝統的なメモリー製品ではそう。これはまあ納得できます。

一方人間の脳は全くそんなふうにはできていないらしい。機械のハードディスクのように増設ができないので、同じ容量のままで膨大な情報を保存・蓄積し続けて行く必要がある。そのため脳では、1部屋に何人もいる、1つの引き出しに複数の情報を折り重ねて保存する、という感じのことが起きているらしい。

無意識が「複数の事象」から「何らかの類似点」を認識し、それらを「関連のある一つのもの」として同じ場所に保存・記憶する。例えばAm7(b5)もCm6もF7(9)も「A-C-Eb-G」の4音で表現することができて、ギターでは同じフォームが使えたりしますが、脳は基本的にそういう発想で情報をストアしているらしい。

しかし本当は複数であるものを、相互に関連付けているとはいえ脳は限られたスペースにごちゃまぜに詰め込んでいる。私達が日常的にやる「間違い」の原因がここにある。脳から情報を取り出すときにエラーが起きてしまうと、それが「間違い」になる(だから「間違い」には大体パターンがある)。

言い間違い。聞き間違い。人違い。弾き間違い。こういう「間違い」は脳の構造上、仕方ないことのようです。反対にコンピューターでは基本的にこういうエラーはないらしい。原理的に多分そうなんだろうと思います。

では脳というのは不正確で性能の悪いものかというと、全くそんなことはないんですね。ひらめき、インスピレーションと呼ばれるものが、まさにこの脳の構造から発生するものらしいからです。つまり一見関連のない複数の情報間でシナジーが発生して、新しい情報が発生する。それが「ひらめき」の正体らしい。

よくある笑い話で、セッションで「アナザーユーやろう」と言って始めたら “There will never be another you” ではなく “There is no greater love” を弾く人がいた、というのがあります。最初の “There” だけで似たものとして記憶していて、情報を取り出す時に錯誤、エラーが発生してしまったんですね。

これはネガティブな面、単なる間違いなのですが、この時にバンドでアナザーユーのEbΔ7とグレーターラブのBbΔ7が同時に鳴ったとする。するとその時、リディアン(#11)が自然に発生している。ひらめき、インスピレーションとは無意識にこういうシナジーが次々に発生している状態なのだと思います。

演奏中、明らかに間違った音を弾いてしまった、という経験は誰にもあると思います。本番では音楽は止められないので「ああ…ミスった」などと後悔しても意味がありません(練習時はミスの原因を探る必要はあっても)。

もし「ムッ…(汗)」と思ったら、そこから何かに繋がらないかを瞬時に模索してみる(模索といっても考えている時間はなく反射的に何かするんだろうけど)。面白いのは明らかなミスをきっかけにして普段の自分からは絶対出てこないような新しいフレーズが(稀ではあっても)出たりします。

だから間違いを恐れる必要はないのでしょう。間違えてもいい! というのとはちょっと違うんだろうけど(コントロールすることの意志を放棄して良いわけではないはず)。人より多く間違えるという人には、もしかしたら人より多くのひらめきが待っている可能性もあるのではないでしょうか。


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