2012年頃の古いインタビューなのですが、Premier Guitarでのインタビューでビル・フリゼールが「自分のことをやる」ことについて語っています。平たくいうと「個性の追求」について。
PG: ジャズ・ミュージシャンはかなり保守的になりがちで、真のイノベーションはしばしば抵抗に遭遇します。時に敵対的ともなりうる風土で、あなたはどのようにして自分自身のボイスを追求する勇気を見つけたのですか?
BF: 自分自身のことをやるということについて、僕はものすごく頑固だった。でも同時に、(自分自身を追求することは)脆く壊れやすい(fragileな)ものだと思うんだ。僕たちはみんな、自分自身の道を見つけようと努力している。時々、抵抗勢力みたいなものに直面することはある、けれど僕はかなりラッキーだったと思う。
困難な時に、いつも誰かが励ましてくれたんだよ、僕を挫(くじ)くのではなく。何度かは意気消沈させられた、でもこう言ってくれる人がよくいたんだ、「おい、お前のサウンド、グレートだよ」って。ポール・モチアンみたいな人と演奏することは、自分がやっていることを信じるという意味ではかなり大きかった。実際、両親も僕が音楽をやることに前向きだったし、思い返すとマイク・スターンと四六時中演奏している時もそうだったな。こういう人達が、特定の時期にそばにいなかったら、全く違う話になっていただろうね。
インタビュワーはどちらかというとロック寄りの方らしいのですが、ニューヨーク生まれのギタリスト。その方がさらっと「ジャズ・ミュージシャンは保守的で新しい表現に敵対的で〜」というニュアンスのことを言っていてまず驚きました。どうもジャズという音楽は洋の東西を問わず「頑固な保守層」を生んでしまうようです。
そうした「保守的な頑固者」たちがビル・フリゼールの音楽表現に眉をひそめたのは想像に難くないですが、あくまで自分がやりたいのはこれだ、とその道を歩んだフリゼール氏の頑固さが勝ったのでしょう。
自分がやりたいこと、自分のサウンドの良し悪しや正否の判断を他人に委ねないように、というベン・モンダーの言葉を思い出します。2年前に下の記事で紹介しました。
どんな表現ジャンルにおいても、なんとなくメインストリームな集団があって、異質な表現者は抵抗されたり反対されたりするでしょうし、表現者のコミュニティを1つのエコシステムと考えるなら、実はそれが健全な構図なのかもしれません。だから挫けずに自分を信じること、挫けそうな友人を支えることが大事ですね。それは結果的にジャンルやコミュニティの活性化にも繋がるはず。
作曲家の武満徹は、山根銀次という音楽評論家にデビュー作を「音楽以前」と酷評され、映画館の暗闇の中でシクシク泣いていたそうです。武満氏が師事した清瀬保二という作曲家は、武満氏に特定の作曲法を教えるのは適当ではないと考え、レッスンはいつも雑談だったと聞いたことがあります。武満氏とフリゼール氏の育ち方、なんとなく重なります。
正しい音楽、は大体つまらない。正直な音楽が面白い。