Quantcast
Channel: Jazz Guitar Blog
Viewing all articles
Browse latest Browse all 927

愛されるギタリスト、ミック・グッドリック

$
0
0

JazzTimesに”Mick Goodrick: Six-String Theorist(ミック・グッドリック、6弦の理論家)”というインタビュー(ネットでは先月公開)が掲載されていることをJazz Guitar Forumで教えていただきました。なかなかボリュームのある内容なのですが、興味のある方も多いと思うので一部を抄訳で紹介します。記事執筆者はJoel Harrison氏で、彼もまたグッドリック氏に学んだギタリストだそうです。かなり面白いです。

1970年代なかば、ジャズ・ギターの黄金時代があった。パット・メセニー、ジョン・スコフィールド、ビル・フリゼール、マイク・スターンらによって新しい青写真が創られつつあった。基礎となるのはまだジム・ホールとウェス・モンゴメリーだったが、時代は異なる美学を要求していた。バークリーでの研鑽や、ボストンでのギグ、ケンブリッジのジャズシーンを通じて、これらのプレイヤーたちは風景をリシェイプしていった。そして彼等は同じメンターを共有していた。ミック・グッドリックである。

彼は驚くべき数の優れたギタリストたちに教えてきた。その中にはウォルフガング・ムースピール、リオネル・ルエケ、ニア・フェルダー、ラーゲ・ルンド、ジュリアン・ラージが含まれ、さらに多くのギタリストたちをインスパイアしてきた。簡単に言うと、彼なしでは今日のギターミュージックは同じ響きになっていないだろう。現在72歳、数千人の生徒に教えたグッドリックは半世紀にわたりジャズ教育において名高い存在であった。そのあいだの大部分を彼はバークリーで過ごしている。ジム・ホールとウェス・モンゴメリーに影響されつつ、ジャック・ピーターソン、ウィリアム・リーヴィット、ハーブ・ポメロイらと学び、1967年に学位を取得した。彼はジャズ及びギターの教師としては珍しいかたちで生徒や同僚らから愛されている。「ミックは僕が抱える問題を素晴らしい方法でわからせてくれたんだ。演奏を注意深く聴いたあと、有機的で、しばしば驚くべきソリューションを提供してくれた。」と、グッドリックと2年半を過ごしたジュリアン・ラージは言う。「彼がシェアしたがっていたことに限界はなかった。自分とギターのかかわりかたについて、僕はかなりの部分をミックに負っているよ。」

「ほとんどは、私はコンピングを買われて仕事を得ていたように思う」とグッドリックは言う。「私の生徒たちにも推奨していることのひとつだ。もし君が誰かの演奏をグッドにサウンドさせられるなら、彼等はまたは君を雇うだろう。コンピングをしている人は最良の仕事を得ていると言える。その人はリズムセクションの本当のヘッドだし、ベースとドラムとソロイストの架け橋になっている。それにソロもやらせてもらえる」

「ボイスリーディングであれ、リズムであれ、モティヴィック・セルであれ、どんな主題もそれぞれの包括的な最終地点まで論理的に導かれていくから、手付かずのまま残るものが何もないんだ」とベン・モンダーは言う。「しかし彼はそこで僕達に楽をさせてはくれない。僕たちはこれらのシステムが提示する地図を、自分で作図するようなチャレンジに直面させられるんだ。そのことによって、僕たちはみんな個人的な旅を続けることになり、ユニークなソリューションに辿り着くことになる。」

自分の著書は受け身の態度で取り組むよう、彼はすすめている。素材を暗記しようとか、覚えているかとか心配しなくていい。毎日1ページをやれば、300日後にはあなたのプレイは気付かないうちに変わっているだろう。1行の内容が1ヶ月間の注意を占めると考えなさい。

「1973年にボストンにやってきた時、ミックは音に関する僕の考え方に巨大な影響を与えたよ」とビル・フリゼールは言う。「彼はジム・ホールが発展させてきたレガート、リキッドなフレージングをさらに推し進めた。かつて聴いたこともないようなやり方で音を繋いでいた。彼はビバップと、その後に続く音楽のリンクだった。」

「ずっと演奏し続けるだろうと思っていんだ」とグッドリックは振り返る。「しかし60歳になると、そうした欲求がなくなってしまった」。彼は2005年にモントリオール・ジャズ・フェスティバルでパット・メセニーと共演した時のことを思い出している。彼等はスタンダードやフリー・インプロビゼーションを演奏し、音楽はものすごくうまく行った。終わった時、彼は夢から醒めるように感じた。まるで聴衆が消えてしまったかのようだったという。彼は自分が何処にいるのかわからなくなり、自分に可能な最高レベルの演奏を行ったのだと感じた。内なる声が彼に言った。「もうこれをやる必要はないよ。」その結果、バークリーの学部での数度の演奏を除くと、そのデュオ・コンサートが彼の最後のパフォーマンスとなった。「そこにいた。あれをやった。」と彼は言う。

ミック・グッドリックのレッスンはどのようなものだろう? 生徒が最初に気付くのは、彼の茶目っ気のある乾いたユーモア・センスだ。生徒たちを鼓舞し、辛抱強く付き合うが、彼は人の心を暖かくするような、手を取るようなタイプではない。彼は素早く生徒のエゴを解除し、練習が持つより深いテーマに注意を集中させる。謎めいていて、沈黙しがちな彼は、提案することはあっても要求はしない。最近彼は創造的なプロセスと干渉する脳の部位を沈静化する方法を見つけることにフォーカスしている。生徒には、その目的のためにドローイングをツールとして使うように言っている。彼によると、ドローイングはクリエイティビティの制限を超えるために役に立ち、より深く対峙できるようになるという。これらのエクササイズは脳を騙し、禁忌や分析的な精神構造から心を解放する。現在彼は音楽と同じほど神経学に興味を持っており、1日に1枚のドローイングを生徒に描くように言っている。彼はまた心を穏やかにする作用のある、南アフリカ原産の古いハーブ・サプリメントである「ゼンブリン」を生徒に奨めている。「とてもシンプルにしています」と彼は言う。「ドローイングの宿題を出して、ゼンブリンを提供し、メトロノームの2と4で練習するように、そしてスタンダード曲のレパートリーを増やすように、コードワークの副教材をやるように言うだけです。」

自身の練習ルーティンについては、グッドリックは終わることのない探求を続けている。そう遠い昔ではないが、彼はスティーヴ・スワロウの「フォーリング・グレース」をコンプする55通りの方法について書いた。この曲をやりすぎるせいで、もうこの曲をやりたくないと思ってしまわないか心配したが、結局、彼は十分に研究できていないことに気付き、またこの曲に戻っている。彼の練習は時に研究となり、新しい本が生まれる。

「ミックは聡明な心を持っている」とデイヴ・リーブマンは言う。「彼の演奏を見るのは驚きだ。そこには静けさがあり、執着のなさがある。彼はほとんど動かない。彼の存在感が伝わってくる。強く、そして繊細なものの両方。」

「彼は言葉の最も広い意味で、本当に思いやりのある人物だよ」とメセニーが説明する。「彼の聞きかたにはある種の気付き(悟り、awareness)がある、音楽家として、そして『関わり』(engagement)とコミュニケーションに誘う人間として。いつも、前に終わったところからまたはじめる感じなんだ。」

グッドリックはバークリーからの引退を準備中である。彼の代わりは誰にも務まらない。まだそうできるうちに、彼のレッスンを受けなさい。

ミック・グッドリック氏、愛されていますね。

 

The Advancing Guitarist
The Advancing Guitarist
posted with amazlet at 17.12.19
Hal Leonard (1987-11-01)
前人未到の即興を生み出すギター演奏の探求
ミック・グッドリック
リットーミュージック

Viewing all articles
Browse latest Browse all 927

Trending Articles



<script src="https://jsc.adskeeper.com/r/s/rssing.com.1596347.js" async> </script>