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カントリー・ミュージックという私の知らないアメリカ

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カントリーと呼ばれる音楽ジャンルのことを私はまったく知らず、興味もなかったのですが、ギターには「チキン・ピッキング」と呼ばれるカントリー由来と思われる技法があったり、ジュリアン・ラージがジャズ以前の音楽を探る過程でカントリー的なものに接近したりと、たまに気にはなっていたのでした。

カントリー、という言葉で私が思い出すのはこの曲、ジョン・デンバーの「故郷に帰りたい」です。確か小学校の時、英語の授業で聞かされた記憶があります。故郷を懐かしむ歌。とはいえこの曲、ガチのカントリーというよりも「カントリー風ポップ」という感じの位置付けらしいです。

ではあらためて「カントリー」とは何か。Wikipediaには、こういう説明があります。

北米大陸へ移住してきたアイルランド・スコットランド・イングランドなどのケルト系やアングロ・サクソン系を中心とした西欧・北欧・東欧系の移民が持ち込んだ音楽、特にケルト音楽やヨーデル、ポルカなどがアパラチア山脈一帯やアメリカ北東部からアメリカ南部にかけての山岳丘陵地帯の農村などで様々な音楽の影響を受け、オールドタイム・ミュージックやヒルビリー・ミュージックと呼ばれるアメリカ民謡の基礎を形成する。 それが19世紀後半の鉄道網の発達、蓄音機の発明、20世紀前半のラジオの普及になどにともなって北米大陸全土に広まり、その伝統民謡的な部分を保ち続け1940年代にビル・モンロー(Bill Monroe)等により確立された民謡スタイルの音楽をブルーグラスと呼び、逆に様々な音楽を取り入れ大衆音楽化して、変化し続けているタイプの音楽をカントリー・ミュージックと呼ぶ。

少し分かってきました。アメリカのフォーク・ミュージックの基礎となった音楽。これはもしかすると、ジャズと深い関係のあったブルース・ミュージックと同時並行的に、表と裏のような関係で、アメリカで進化してきた音楽ではないか、と私は思ったのですが、どうでしょうか。

私はこちら側のアメリカのことをよく知らないで生きてきました。

商業的に最初に録音されたカントリー・ミュージックの曲の1つがこの”Arkansas Traveler”だそうです(Eck Robertson & Henry C. Gillilandによるバイオリン)。録音で聴くことのできる最も古いカントリーであるとのこと。1922年。

この”Arkansas Traveler”を聴いた時、上のWikipediaの説明に納得しました。むかし中央ヨーロッパ某国の山奥で、現地で「山男」と呼ばれる人々が民族衣装を着てバイオリンを弾くのを聴いたのですが、いま思うとあの音楽とこのカントリーの距離は何かとっても近い。

などと書くと「お前適当なこと書いてんじゃねーぞ」とカントリー警察の人に逮捕されそうですが、私が言いたいのは「ヨーロッパの田舎の音楽に起源があるんだな」ということです。ケルト系の影響が強調されることが多いようですが、ドイツやチェコ、ポーランドあたりで木こりをやっていたような人々の音楽の影響も強いのではないかと推測。

上の”Arkansas Traveler”から92年後の2014年、テイラー・スウィフトが”Shake It Off”という曲を発表しました。テイラー・スウィフトはカントリーに強く影響を受けた人らしく、分類的にはカントリー・ポップだそうです。そのことを知った時、新しい風景が見えました。カントリー・ミュージックの進化、すごいですね。

下はガース・ブルックスという、やはりカントリー・ポップでは超有名な人の”Friends in Low Places”(うらぶれた界隈の友達)という曲。この曲は「カントリー」について持たれている先入観をそのまま歌っているようです。貧しく、粗野で、教育もない下層階級のアメリカの白人が、肉体労働をした後にバーに寄ってウィスキーやビールで疲れを癒やす、というイメージ。

アメリカには”red neck”(首が赤く日焼けした人)という言葉があり、それは日本語で言う「土方」に近いものらしいのですが、日本語同様、必ずしも侮蔑・差別的な言葉ではなく、レッドネックであることを誇りにしているアメリカ人も多いとのこと。

アメリカ人、と書いたけれども、正確にはホワイト・アメリカンでしょう。ホワイト・アメリカという言葉はもう使えないのかもしれないし、黒人のカントリー・シンガーもいるようですが、ブルースが虐げられた黒人の音楽だったとするなら、カントリーは虐げられた白人の音楽だったのだろうか、とこれを書きながらぼんやり考えています。何らかの抑圧と関係がありそう(そもそもアメリカにやってきた移民は貧困や抑圧に苦しんでいた人が大半だったでしょうから、当然か)。

勿論、つらい記憶や社会への不満だけを歌うのでなく、郷愁とか、故郷を大切に思う気持ちが歌われて、それは時に愛国心や、共和党への支持に繋がったりするのかもしれません。

場合によってはドナルド・トランプへの支持にも繋がるのかもしれませんが、このあたりの事情は複雑らしく、カントリー・ミュージック愛好家が全員白人至上主義者でトランプ支持者かというとそうでもない。ジュリアン・ラージがトランプ支持者なわけがないし、ジョン・スコフィールドも違うはず。こんなアルバムを出したけど。
 

カントリー・フォー・オールド・メン
ジョン・スコフィールド
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カントリー、私にとってはまだまだ謎だらけで、わからないところの多い音楽です。最後までわからないかもしれません。


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