やあみんな! ぼくは、ギター。もう古くなって、ところどころくたびれてきたギターだ。最近、弦がはじかれるとビィ〜ンとヘンなノイズがするから、近所のギター歯科医院に行くことにしたんだ。
すると診療室に呼ばれるなり、その先生はぼくの顔も見ずにこう言ったんだ。
「はーいとりあえずレントゲン撮ろうかね、はいそこ行って…」
「いえ、あの、まず簡単に症状を説明させてください」と焦るぼく。
「いや、シロウトさんの説明とか要らないから。次回の診療でも使うし、レントゲン」
まず話くらい聞いてくれたっていいじゃないか。それに、こんな一方的な態度の病院にまた来るわけがないのに、なぜ通院が前提になっているんだ。でも拒否すると今日の診療を適当に終えられてしまうかもしれない、それは困る…
「レントゲン、異常所見なし。はい画像診断317点、と…」と先生。
「でもいろいろ悪そうだから診てみようか。どれどれ。あー、キミ、フレット減っちゃってるね…もともと安物のフレットだったんだろうけど…使い方も悪いねぇ…」
「…擦りあわせをお願いできますでしょうか」
「あのね。そんな簡単なことじゃないんだよ。擦り減ってノイズが出ている部分を治すには、複数のフレットを調整する必要がある。調整というか、交換だな。いくつかフレットを抜いて、新しいのを入れる。指板もそれに合わせて審美的に矯正する」
「あのー、それ、期間どれくらいかかるんですか」
「2年」
「えっ」
「料金は、そうねぇ、120万くらい見といてください」
「あの、とりあえずちょっとでもノイズがしないよう、応急処置はしてもらえないんでしょうか」
「キミねぇ、これだからシロウトは困るんだ、勝手なことばかり言う!クレーマーかキミは。全体を直さないと意味ないんだよ!それにキミ、これから何十年も生きるんだろ? 安い投資じゃないか。後で泣くことになるよ!しょうがないなあ…」
先生はブツブツ言いながらぼくの減ったフレット以外の部分を調べはじめた。別にどこも悪くないところだ。そして急にこんなことを言いはじめた。
「ん? キミ、バインディングに小さいヒビがあるね…これ、ここから欠けてくるよ。どんどんクラックが広がっていって、いずれバインディングが全部取れる。マイクロリーケージって言ってね、取れたところから湿気が木材にしみこんでいって、最終的に脳梗塞とか心筋梗塞に繋がる恐れがあるから、バインディングも全部交換してしまおう」
「くぁwせdrftgyふじこlpー!!!」
「あとこのペグは何だ、安物じゃないか、動きが渋いな…これゴトーのいいやつに換えとくか…色はゴールドな。ナットも牛骨のに換えるか。あ、これ全部保険効かないからね、でもいいよね?」
「くぁwせdrftgyふじこlpー」
「あと、キミはガンの疑いさえあるから次回詳しく調べよう」
「……」
地獄のような診療と処置が終わったあと、ぼくは放心状態で待合室の壁を眺めた。そこにはさっきの医者に与えられた様々な資格証明書や賞状が額縁に入れて飾ってあった。そのうちのひとつに「モンドセレクション受賞」という文字が見えた。
「イナゴさーん。イナゴ・タブログさ〜ん」受付の人がぼくの名前を読んだ。
「はい、今日は20万円になりますね」
受付の人の後ろにさっきの医者がやってきて、ぼくを見て言った。
「しばらくまともな音出せないと思うけど、気長にやれよ、な? で、次はいつ来れる?」
来ねえよバカ野郎、と僕は大声で怒鳴ってやった。
帰宅後、ぼくの症状は悪化した。