発泡酒の毒に当たりマイルスが消滅してからというもの、ぼくは憂鬱な日々を過ごしていた。まさか無敵のマイルスが発泡酒ごときにやられてしまうとは思っていなかったし、練習中に「そんなものは弾くな…」とか「そのまま続けろ…」とアドバイスしてくれるマイルスが消えたのは寂しい限りだ。
しかし意気消沈していても仕方ないのでぼくは練習後に街に出て昼飯を食べることにした。「伝説のすた丼」という店の前を通りかかる。すた丼。すたどん。もう少し歩いてみようか。他にも面白そうなお店があるかもしれない。
だいぶ歩いているうちにいよいよ腹が減ってきた。もう何でもいいから食べたい。この店は…「たどん」。
さっきの「すたどん」と同じような店なのだろう。どっちも似たようなもんだろ。入ってみるか。と思ったその瞬間、ぼくの身体をドーンと雷が直撃した。ぼくは白目を剥き、口から泡を吹いてその場に倒れ込んだ。目を開くと、片手にトランペットを持ったマイルスがぼくを見下ろしていた。マイルス!
プライドのないものとは関わるなと、何度お前に言ってきたか、忘れたのか…前にもこういうことがあっただろう…
「すた丼」と「たどん」は同じではない…
アイソマールに似せた大庄水産、ビールに似せた発泡酒、すた丼に似せたたどん…
Shame on you…恥を知れ…
常に本物を選べ…本物を選び続けろ…
カッ、と稲妻が光り、ふたたびぼくの身体を雷鳴がズドンと直撃した。激しい雨が降り落ちてくる。朦朧とする意識の中で、マイルスの声が聞こえた。
だが…フレーズを途中から開始するのは、良いアイデアだ…
すたどん、たどん、どんす、たどんす、どんすた、んすたど…
何処からでも開始できるようにしておけ…