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新世紀マイルス語録(16) - 最終回 -:これはビールではない

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その夜ぼくは「新宿ブルートーン」にライブを観に来ていた。いつもそこでは2ステージ観るのだが、ステージとステージのあいだの休憩が手持ち無沙汰で苦痛だ。お腹が空いていてもおいしいものがあるわけではないし、近くに富士そばがあるわけでもない。仕方なく、ぼくはビールを飲むことにした。

ぼくは自分の分と守護霊マイルスの分の缶ビールを買い、プラカップと一緒に席に持ち帰った。マイルスのプラカップに、ビールをトクトクと注ぐ。マイルスは無言のままクイッとそれを一息で飲み干した。

新世紀マイルス語録(16) - 最終回 -:これはビールではない

しかし次の瞬間、マイルスの眉間に皺が寄り、苦虫を噛み潰したような顔になった。

これは…何だ…?

何って、ビールだよ。アサヒの淡麗グリーンラベル生というビールさ。

マイルスの眉間の皺がさらに増える。そして額には汗が吹き出している。体調でも悪いのだろうか。

詳しく説明しろ…これは…この飲料は、何だ…

一体どうしたんだろう。とにかくぼくはそのビールについて説明した。これはねマイルス、発泡酒とも言う。麦芽比率を25%以下に抑えることによって税率が低くなり、おかげで低価格で提供できるビール風飲料として、この国では重宝されているんだ…景気が悪くてみんな節約志向だからね…正直、法の網の目をくぐったような、つまらない飲み物だけれど…本物のビールより、味は落ちるけれど…でも、ビールはビールさ!

This ain’t no fxxkin’ beer man…
(これは、ビールではない…)

そう呟いたマイルスに、異変が起きた。ウッ!と呻き、椅子から地面に崩れ落ちてしまったのだ。マイルス!苦しそうに横たわるマイルスをぼくは抱きかかえる。マイルスの口から血が流れている。大変だ!

いいか…よく聞け…おれは、本物しか認めない…俺は、ずっと本物だけを追求して、生きてきた…だから、ニセモノは受け付けない身体になった…だがいま、ハッポーシュとかいう、プライドのないインチキな飲料が、俺の身体の中に入ってしまった…

俺という気高い存在は、このハッポーシュという妥協の産物の毒に冒され、まもなく消えてしまうだろう…だが、気にするな…お前のせいではない…誰のせいでもない…こんな時代に生まれたのも、このインチキなビール風飲料が存在するのも、お前のせいではない…

だが…これからは、本物を目指せ…こんな妥協だらけの、プライドのない飲料みたいな音楽は、やるな…それが俺からの、最後の…

マイルス!マイルスの身体が、どんどん透明になっていく。そしてついに、マイルスはゆっくりと消滅した。

ぼくは「新宿ブルートーン」を飛び出し、夜の新宿の街中をマイルスを探し歩いた。しかしマイルスの姿は何処にもなかった。マイルス ーー!

 


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