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今すぐ弾ける他人のジャズ・3年後に弾ける自分のジャズ

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YouTubeでも大人気のジャズギタリスト・宇田大志さんの著書「3年後、確実にジャズ・ギターが弾ける練習法」が先週末に届きました。この本のタイトルには衝撃を受けましたが、「はじめに」を読んであらためて「時代は変わった」と感慨を深くしました。

今すぐ弾ける他人のジャズ・3年後に弾ける自分のジャズ

教則本には「今すぐ弾ける」や「誰でも弾ける」というキャッチコピーのものが数多く存在するものの、この本はそういうものではない、と書かれています。

ジャズは簡単ではない、少なくとも3年はかかるからその現実を受け入れて練習しよう、ということだと思います。

出版社は企業なので営利を追求します。売れないものはプロデュースしない。これまでは多分「ベン・モンダーのジャズギター練習帳・キミも1日6時間の練習で20年後にはこれが弾ける!」みたいなストイックな本は絶対に売れなかったから、作らなかった。

かわりに、今すぐ弾ける、明日弾ける、3ヶ月で弾ける、誰でも弾ける…という、「すぐに結果を手に入れたい人」向けの本がたくさん世に出た。そういう本のほうが売れた時代だったのでしょう(いや、今でもまだまだそういう本のほうが売れるのかもしれないけど)。

そのことによる弊害があったとしたら、「楽器演奏の愉しみ」を「一時的な消費の対象」として終わらせてしまった人々が多く生まれたことではないでしょうか。

ジャズギターかっこいい。やってみたい。やってみた。俺には無理だったw やめたww ギター売ったwww そういう人、多かったんじゃないでしょうか。

そしてその「w」たちにはちょっとした哀しみが込められていたのではないでしょうか。

「すぐできる」系の本の執筆者に責任があったのだ、とは思いません。市場主義経済下では、それはある程度避けられなかった出来事だったようにも思います。そうでないと売れなかったのだし、そういう本に助けられた人もいるでしょう。ジャズのハードルを下げ、間口を広げるという効果もあったと思います。

翻って、この「3年後、確実にジャズ・ギターが弾ける練習法」という教則本のタイトルは、新しい時代の象徴のような気がして、本当に興味深いです。

もしかすると、かなり多くの人が、ジャズ・ギターが好きだ、やってみたい、でもこれまでさんざん色々な教則本で練習してきたけれど、付け焼き刃では、一夜漬けでは、本当に「自分の音楽」を弾けるようにはならなかった、タブ譜を見て他人のフレーズを弾けても、自分のフレーズを弾けるようにはならなかった、と痛感してきたのではないか。

そして、それでも自分の音楽をやりたい、と切望する人が増えてきたんじゃないか。

宇田さんとリットーミュージックはそういう人々の潜在的なニーズを汲み取ったのだろうか、すごいな、と思ったのでした。

成熟した大人のための、真面目な本じゃないですか。「3年はかかる」というこれまでなんとなく隠されてきた「不都合な真実」をタイトルにしているのですから。

単に本を売るのではなく、新しい文化をつくろうとしている、と言っても大袈裟ではないんじゃないでしょうか。

日本のジャズの未来は…とか私は全然興味がないので考えないのですが、日本のジャズ・ギター・シーンの未来はわりと明るいのではないかと思いました。こんな真面目な本がamazonの和書部門全体で20位にランクインしたのですから(この記事を書いている時点でも25位)。

私も、3年後に今よりうまくなっているようにあらためてこの本で勉強させていただきます。


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