先日この記事で「パラレルマイナー」という言葉をうっかり気軽に使ってしまったのですが、一般に「パラレルマイナー」と言えば「パラレル・マイナー・キー」のことを指すと思います。
ところで「パラレル・キー (parallel key)」は日本語では「同主調」と訳されます。「主音を同じくする調」という意味に取って良いでしょう。つまりC Major(ハ長調)の同主調は、C minor(ハ短調)です。
ここで一つ厄介な問題があります。英語の “Parallel” という単語は、音楽以外の一般的な文脈ではよく「平行」と訳されることが多いと思います。そのため「パラレル・キー」を「平行調」と間違って憶えてしまう人が多く、試しにネット検索したところやはり混同しているページをいくつか見つけました。
「平行調」は英語では “Relative key” と呼び、意味は勿論、全く同じ調号を持つメジャー・キーとマイナー・キーのことで、C Major(ハ長調)にとっての平行調は A minor(イ短調)になります。C MajorにとってのA minorは「レラティヴ・マイナー(平行短調)」であって「パラレル・マイナー」ではありません。
この誤解を招きやすい言葉の問題はドイツ語にもあり、平行調のことを “paralleltonart” と呼ぶそうです (Wikipedia)。日本語がややこしいことになっているのはドイツ語が関係しているのかもしれませんね。
以下まとめです。
- 同主調 (parallel key)・・・主音を同じくする調のこと。例:C Majorから見たC minor、またはその逆。
- 平行調 (relative key)・・・共通の調号を持つ調のこと。例:C Majorから見たA minor、またはその逆。
ここで脱線です。C MajorとC minorは、お互いに行ったり来たりしやすい関係です。そのためC Majorの曲の途中でC minorのダイアトニック・コードを借りてくるという場合があります。例えばbVII7のBb7。これは同主短調のエオリアンの7番目のコードで、ivm7 (Fm7)の代理。機能は勿論サブドミナント・マイナー。
有名な曲では “The Days of Wine and Roses” (酒とバラの日々)の2小節目(Key in Fの場合Eb7)がこれです。メジャーキーの曲なのに微妙に憂鬱な感じがするのは(しなかったらすみません)主にこのbVII7や、後に登場するivm7 (Bbm7) のせいです。
こう考えると、「お酒を飲んでハッピー(メジャー)、でもアル中で憂鬱(マイナー)」的な曲の背景にぴったりの出来事がハーモニー上でも発生しているわけですね。よくできた曲ですね。
こういうコード借用の手法はモーダル・インターチェンジ (modal interchange) とも呼ばれます。多くの場合、同じ主音の別のモードに移行することを指します。上の「酒バラ」の場合はCアイオニアンとCエオリアンという2つのモードの間でコードの交換が発生している、ということですね。