最近私の頭から離れないあるフレーズがあります。残念ながら(?)ジャズではなく、CMで耳にしたあるピアノ曲の旋律です。
現代音楽作曲家・新垣隆氏が「金鳥コンバット」のCMのために書き下ろしたと思われる「COMBAT」という曲の主旋律です。CMの限られた時間ではいろいろカットされていると思うのですが、冒頭7小節はこんな感じでしょうか。
もし佐村河内守氏がこの曲のプロデューサーだったのなら、
黙示録的な和声的短音階、そして恐怖と絶望の… そう、減三和音が半音階的に入り混じりあう中、いま移調の限られた狂気の舞踏がはじまる… ウッ頭が!!
みたいな指示を書いていたであろうか、と妄想しました。
このメロディ、あまりにガッチリ私の心を掴んでしまったので採譜したところ、発見がありました。頭の中で聞こえていた音と何箇所か違っていたので、脳が補正をかけて記憶していたのだと思います。当たり前ですが、ジャズ的なクロマチックの使い方とはかなり違うように感じます。
このメロディ本当に素晴らしいですね。音の選択はよくわかりませんが、強力なリズムに乗ったクロマティックな動きが魅力的です。あえてジャズギタリストの例を出すとこういう感じのラインはジョン・スコフィールドが弾きそうです。そして新垣氏の演奏は強烈にグルーヴしています。
新垣氏はこの曲を「金鳥コンバット」の効果に感動して作ったとのことですが、目の前でバタバタと倒れていく黒い昆虫たちの屍を目にした心優しき氏の罪悪感や、絶望のうちに息絶えていくGたちの断末魔の叫びを想像しつつ作曲されたのではないかと思うのですが、気のせいでしょうか(※完全に気のせいです)。
たった7小節とはいえモチーフの展開が見事です。ほんのわずかなエディットと上行下行の入れ替えで短時間のうちにドラマが発生しています。良いソロのはじまり方のお手本のようです。そしてパット・メセニーがこんなことを言っていたのを思い出しました。
もしラインが強力なリズムを持っているなら、何の音を弾くかはほとんどどうでも良い。
If a line is rhythmically strong, it almost doesn’t matter what notes you play.
勿論新垣隆氏の名曲「COMBAT」の旋律は注意深く構築されたものだと思いますが、これだけ強力なリズミック・フィギュアがあれば何を弾いても確かにサウンドしそうです。
ラインが「リズム的に強力」であるためには、必ずしも譜割りが複雑である必要はないという良い例でもあると思います。新垣氏による演奏の素晴らしさも手伝っていると思いますが、譜割りはかなりシンプルです。十分にフィールを込められれば、4分音符だけのフレーズでもサウンドするはずなのだ、ということを改めて思ったのでした。
それにしても「COMBAT」は本当に良い曲ですね。全音のピアノピースや、日本ショットの黄色い楽譜として出版されたらとても嬉しい(かなり本気です。左手のクラスター音がどうなっているのか知りたい)。