これから時々、温故知新的な気持ちを込めて歴史的なフレーズを紹介して行きたいと思います。今回はその第1回です。
まず以下の音源をお聴き下さい。ジム・ホールによる「ステラ・バイ・スターライト」の演奏です(1957年発表のデビュー・アルバム”Jazz Guitar”収録)。今回紹介するフレーズの開始位置(0:51〜)から再生します。
この曲はBbで演奏されることが多いと思いますが、ジョージ・ベンソンやジム・ホールはGで演奏していますね。以下、上の演奏を参考に譜面にしてみました。
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この演奏を久しぶりに聴いた時、「えっ、ジム・ホールもこれを弾いていたのか」と驚きました。そして彼は、このフレーズを私が知っている和声的文脈とは微妙に違うところで弾いていたので、さらに新鮮でした。
ジム・ホールはこのフレーズをメジャー・ツーファイヴのDm7-G7-CΔ7上で弾いています。CΔ7上ではどうやらメロディック・マイナーを意識して弾いているようです(CmΔ7)。
ところでこのフレーズ、パラレルマイナー進行(あるメジャーコードがそのままマイナーコードに変わる進行)上で使われることが非常に多いと思います。例えば次のようなコード進行です。
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パラレルマイナーはIVΔ7-ivm7(VIIb7)、またはIΔ7-im7として登場することが多いでしょうか。このパターンが登場する曲は相当数あり、ぱっと思い付くだけでもSolar, All The Things You Are, I’ll Close My Eyes, How High The Moon, The Days of Wine and Roses, There Will Never Be Another You等があります。
ivm7はサブドミナント・マイナーで、同主調のマイナー・キーからの借用(モーダル・インターチェンジ)。VIIb7はivm7の代理コード。そのためIVΔ7-VIIb7というコード進行でもこのフレーズはサウンドします。
私はこの有名なフレーズを勝手に「哀愁のパラレルマイナー」と命名し、脳の奥底に記憶しています(余談ですが、よく満員電車での通勤時等、自分が知っているフレーズに何か変わった名前を付けるという遊びをよくやります)。
このフレーズ、ジャズの演奏に何年か取り組んできたという方なら必ず何処かで聴いたことがあるか、弾いたことがあると思います。そのくらい有名です。ついでにもう1曲使用例を見つけました。開始位置 (3:44〜) から再生します。
このフレーズは1950年代の音源でよく聴かれるような気がするのですが、元ネタが気になります。楽器を問わず本当に多くの人が使うフレーズです。
このフレーズに限らずパラレルマイナーを自在に表現できるようになると中級者、みたいなことがよく言われます。ジム・ホールはこのフレーズをパラレルマイナー上でなく普通のツー・ファイヴで使っているあたり、やはりちょっと斜め上な感じがして面白いですね。
恐らくジム・ホールはメジャーからマイナーへの移行よりも、このフレーズの独特なリズム型が気になったのかもしれません。モチーフとして展開しやすい・展開したくなるフレーズで、上で紹介した演奏はいかにもジム・ホールっぽくていいな、と改めて思ったのでした。