マイク・モレノという人はつくづく特殊な人だなと思います。特殊というか、一貫している。妥協がない。信じることだけを追求してきて、今に至った。そういう人ではないか。
My Music Masterclassのマイク・モレノのレッスン動画3本セットを数回観ました。内容を詳細に説明するとモレノ先生の動画が売れなくなってしまうので、細かくは書けないのですが、彼のレッスンは他のMMC動画とは一線を画しているように思います。
それは一言で言うと、デバイスのようなものはない、ということが繰り返し語られている点です。何か入れたら何か出てくるような便利な装置。コツ。トリック。いますぐ使える便利な◯◯。そういうものをマイク・モレノは好きではないようです。好きではないというか、彼はそもそもそういう出発点を持ったことが一度もないようなのです。
本人はよく、どんなボイシング使っているんですか、と聞かれるそうです。しかし上の動画でもボイシングについての詳細な解説はありません。ではマイク・モレノは意地悪で、何か出し惜しみをしてあの華麗で叙情的で不思議な響きのするボイシングを教えてくれないのか。
動画を全部見ると、決してそうではないことがわかります。マイク・モレノにとって、2-5進行の時にどんなフレーズが使えるのか、どんなコード・ボイシングが使えるのかといった発想は、全く意味がないことが見ているうちにわかってきます。その過程が本当にスリリングな、大袈裟に言えばドキュメンタリー的な要素もある不思議な動画でした。
「ツー・ファイブではどんなボイシングを使えますか」とマイク・モレノに聞いてみるとしましょう。するときっと、
「それは何の曲のどの部分のツー・ファイブだい」と聞き返されるでしょう。
「オルタネイトとレガート、どちらのピッキングが良いでしょうか」と聞いてみるとしましょう。すると彼はきっと、
「どんなフレーズをどんな風に弾きたいんだい。それは頭の中にしっかりあるのかい。聞こえるのかい」と聞いてくるでしょう。
「ホーン・プレイヤーのように弾きたいです」と答えたとしたら、きっと彼は
「ならオルタネイトではうまく行かないだろう。エコノミーを取り入れたほうがいい。でも弦移動時にはアクセントも変わる。ここでレガートが出てくる…」と説明してくれるでしょう。
「どのポジションで弾いたら良いでしょうか」と聞いたら、きっと彼は
「4〜6弦の8〜12Fあたりなんて最悪のベースみたいな音しかしないだろ。そこで君は何か弾きたいのか?弾きやすいからそこで弾くのかい?グルーヴしなくても?グルーヴがなかったら何の意味もないのに?」
と答えるでしょう。
どの曲の、どんなメロディを、どんなニュアンスとアーティキュレーションで、どんなトーンで弾きたいか。それを徹底的に追求することで、マイク・モレノのプレイが生まれる。ツーファイブで使えるフレーズはこれ、ストックのボイシングにはこういうのがある、困った時にはこれを弾けば良い、というような、便利なデバイスがない。
たぶんマイク・モレノに憧れて、本当にマイク・モレノのように弾きたいと思ってマイク・モレノを訪ねていったとする。モレノさんのように弾きたいんです!どうすればモレノさんのように弾けますか?と聞いたとします。
するとこう言われるのではないでしょうか。
君はどの曲をどんな風に弾きたいんだい?
「マイク・モレノになるための7つの方法」のような記事が世に出ることは決してないでしょう。「マイク・モレノ・ギター・スクール」という学校も難しそうです。あるとしたら「モレノ寺」でしょうか。
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