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… Where Would I be? – Jim Hall:あるモダニストによる等身大の肖像

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James Stanley Hall、通称Jim Hall。1930年12月4日生まれ、2013年12月10日没。日本の現代音楽作曲家・武満徹と同年生まれ。

詩を愛し、自身のプレイを常に革新することを忘れず、手癖のリックに溺れることなく常にモチーフを展開させつつ、弾くもの全てがメロディとなり、余分な音を何一つ残さなかったギタリスト、インプロヴァイザー。

私がジム・ホールの音楽に触れたのは確か中学生の頃。アルバムはビル・エヴァンスとのデュオ、”Undercurrent”でした。“Undercurrent” (1962) でジム・ホールを知った、好きになったという人は少なくないかもしれません。

私も例外に漏れず、”My Funny Valentine” のハーモナイズド・ベースラインに魅了され、”Skating In The Central Park” や “Romaine” (後に原曲が軽快なサンバであったことを知り驚く)のあまりの美しさに涙したのでした。

いま現在、ジム・ホール未体験の人に1枚のアルバムを勧めるとしたら、勿論その “Undercurrent” も第一候補であるのは間違いないのですが、一番好きなのはこの “… Where Would I be?” (1971) です。「(未来のある時点において)…私は何処にいるだろうか?」という不思議なタイトルのCDです。

Where Would I Be
… Where Would I be? – Jim Hall

1971年録音のこのアルバムにはホールのブラジル体験が強く反映されているようです。彼は1960〜61年にかけてエラ・フィッツジェラルドのブラジル・ツアーに帯同し、当時まさに発生しつつあったボサノヴァに魅了され、ツアー終了後も単独現地に残りブラジル音楽の吸収に努めたのだそうです。

1曲目の初っ端から意味不明なラテン・パーカッションの「ビヨ〜ン!!」という音に面食らうこのアルバム、最後まで油断も隙もない、ささやかではあるものの刺激的な仕掛けに満ちた演奏が繰り広げられます。そしてジム・ホール独特のリズミック・フィギュアには学ぶこと多し、です。

テーマがHW diminished scale(=日本では「コンディミ」として知られているスケール)だけで出来ている16小節のブルース “Careful” が収録されていることでも有名ですが、個人的には “I Should Care” が美しすぎて、ジャズにおけるギターはもうジム・ホールがいればそれでいいや、と時々思ってしまうほどでした。

私達一般人が知っているジム・ホールという人は、いつもニコニコしている穏やかなおじいさんで、速弾きなど滅多にせず本当に必要な音だけを弾いていくストイックなイメージがありますが、実はすごいテクニシャンであったことも有名。調べてみると一時はアルコール依存症になっていた時期もあって意外でした。

Gibson GA-50アンプにシールド直結したES-175の音が素直に前に出てきている感じのこのアルバム。等身大の自分自身より大きくなることも、小さくなることもせず、淡々とソングの魅力を引き出しつつ音楽を楽しんでいるホールおじさんの魅力が詰まっているアルバムだと思います。

何というか、人生山あり谷ありで、いろいろあってこうなった。それで、この人生なんだけど、そんなに悪いものでもないだろう? と問いかけられているような気がするアルバムです(※気がするだけです)。ジム・ホールのアルバムで1枚だけ好きなものを挙げろ、と言われたら私は迷わずこれを推します。


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