2017年1月13日〜25日まで来日中のマイク・モレノ。大のコーヒー好きらしいそのモレノ氏が「世界一うまい」と絶賛するエスプレッソを出すお店が東京・下北沢にあります。その名は Bear Pond Espresso。その筋ではかなり有名なお店らしいです。
下北沢駅から徒歩8分・下北沢一番街にあるこのお店、看板も出ていないので発見しづらいかもしれません。元々駄菓子屋さんだったお店を改装して使っているそうです。”Bear Pond” とはニューヨーク州北部の別荘地にある小さい沼の名前。熊の居住区らしく、そこでは熊の掟に従わなければならないのだそうです。
このお店の掟は店内での撮影禁止。そしていちばん人気のある “Angel Stain” という名物エスプレッソは10:30〜13:30の間しか注文できない点。そのことを知らず、先日はじめて午後に入ってみました。エスプレッソタイムは終了していたのでPOKE(ポケ)というドリップ・コーヒーをオーダーしました。
エスプレッソを飲まずにこのお店について語ってはいけませんと言われそうですが、ドリップコーヒーのPOKEもかなり美味! おいしいものは大体共通してそうですが、雑味がありません。そしてなんとも形容し難い独特の酸味(酸っぱくない酸味…な、な…何を言っているのかわからねーと思うが…)。えぐい感じが皆無。
おいしかったので豆も買ってきました。エスプレッソはお店再訪時のためにとっておくとして、ドリップコーヒー用をゲット。家でこの豆を手挽きしていつもより丁寧に淹れてみたところ、お店で飲んだPOKEの雰囲気を思い出しました。最近コーヒーにハマっているので色々な豆を試しているのですが、このエチオピアは大ヒット。
NEWYORKER MAGAZINEのこの記事で、ベアポンド・エスプレッソ店主の田中勝幸氏は「ブリュード(ドリップ)・コーヒーはファーム(農園)の顔を表現するもの、エスプレッソは店の顔を作るもの」と語っています。これは音楽の参考にもなる思想ではないかと思いました。
ビバップから現代に至るまでのジャズと呼ばれる音楽について、努力を惜しまなければ、私達はその歴史を表現するような演奏に、ある程度は近付くことができる。それだけでもとても難しいことではあるけれど、その先に行こうとする場合、自分の顔を作ろうとする場合、さらに一歩踏み込まないといけない。ということなのでしょう。
東洋経済のこの記事には、こんなことも書かれています。
小さなエスプレッソ屋が100人のうち99人に嫌われない無難なお店になろうとしても消耗するだけだ、と田中さんは考えている。彼が追究するのは100人の中のたった1人の魂を直撃し、病みつきにしてしまう味。そして、顔の見えない人々の顔色をうかがわなくてもいいお店。
これを音楽の文脈で考えると、なかなか胸に来るものがあります。そして、書いていていま、気付きました。マイク・モレノがこのお店のTシャツを着るほどまでに惚れ込んでいるのは、エスプレッソの味が最高なのもあるんだろうけれど、店主の田中さんという方もマイク・モレノも、同じような掟の中で生きているからなのだろう、と。
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