もうすぐ日が暮れる。今日は外でごはんを食べて帰ろう。ちょうど目の前に磯丸水産的な店がある。「水産」という部分は同じだし、魚も貝もあるようだ。本当は「磯丸」が良いけれどこの店で妥協しよう。似たようなもんだ。と思ったその瞬間、ぼくの身体をドーンと雷が直撃した。ぼくは白目を剥き、口から泡を吹いてその場に倒れ込んだ。
目を開くと、片手にトランペットを持ったマイルスがぼくを見下ろしていた。無表情だが、少し怒っているようにも見える。やがてマイルスは言った。
You disppointed me…お前には失望した…お前の音楽愛を見込んでこれまでいろいろヒントを与えてきたが…この程度の男だったとはな…
いいか…磯丸水産とそのフォロワーのあいだには、越えられない壁 がある…
アイソマール（磯丸）は己の力で一つの世界を構築し、貝の殻焼きや焼きイカで俺達を魅了した…そしていま、そのアイソマール人気にあやかろうと有象無象の怪しい連中が、次から次へとアイソマールのニセモノを量産し続けている…
店の語尾に「水産」を付けて、客に海産物を焼かせる自由を与えれば、アイソマールと同じ土俵に上がれると思っている…
安易だとは思わないか…そして、そこには愛がないと思わないか…いいか、覚えておくがいい…愛のない模倣は、人の心に響かないのだ と…
ロングトーンから出直して来い。ファック・ユー
カッ、と稲妻が光り、ふたたびぼくの身体を雷鳴がズドンと直撃した。激しい雨が降り落ちてくる。ぼくはなんてバカだったのだろう。そうだ、どんなにマイルスが最高でも、マイルスの物真似では決して格好良くはならないように、磯丸水産のニセモノが磯丸に肩を並べられるわけがないのだ。ぼくはあくまで思想に、コンセプトに学ばなくてはならない。ぼくはすっかりそれを忘れていたのだ…
お客さん、貝、焼けてますよ！ 店員さんがぼくの肩を優しく揺する。帆立を焼きながら、ウトウトしていたようだ。いまぼくがいるのは、どうやら磯丸水産らしい。何かヘンな夢を見ていたような気がする。マイルスの夢だ。とても大事な話をマイルスはしていた。でも何の話だったか、思い出せない。今度聞いてみよう。
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