本棚を整理していたら「ジャズ・ギター徹底講義!2007」という10年前のムックが目に止まりました(ヤマハミュージックメディア刊)。残念ながら絶版なのですが、ジム・ホールのインタビュー(76歳当時・亡くなる7年前)が収録されており、とても面白い内容が書かれていたので少し引用します(インタビュワーは成田正氏)。
もう何十年もスケール練習をやったことがない。昔は別だよ、ウェス・モンゴメリーが出てきた頃は、どうやればあんな風に弾けるのか必死に練習してイライラしたこともあったし、ジョン・コルトレーンのアルペジオのアダプトに躍起になった時期もあった。でも、「自分のヴォイスを持つこと」にフォーカスを当てるようになってから、いかにして脳を活性化させるかに重きを置いてきたつもりだ。(…)
弾くフレーズの音数は少なければ少ないほどいい。まずはそれで曲の中を歩けるようにならない限り、インプロヴィゼイションが発展しようがない。その代わり、音のつかみ所が良ければ、たとえばこんな風に曲のコード進行がプレイを引っ張っていってくれる。その意味でも、この曲(※「オール・ザ・シングス・ユー・アー」)ほどエクササイズ向きのものもないね。このことを身につけると、次はその発展形を探っていけばいい。
でも、そこからがまた大変なんだけどね。大切なのはよく考えること、考えながら即興すること、この積み重ねが即興の感覚を鍛え、脳の活性化を呼び込む鍵になる。これには、巨匠も学生もない。
なるほど、やはりホール先生はスケール練習がお嫌いであったか、と思いました。同時に、若い頃は一通りやったんだなぁ、とも。ここで言う「スケール練習」の正確な意味は不明なのですが、文脈から判断すると「頭を使わずに特定のパターンを反復するようなスケール練習」という意味ではないかと思います。
スケール練習には賛否があり、やったほうがいいという人・やらなくてもいいという人、様々ですよね。個人的には「スケール練習をすることによって、メロディを生み出しやすくなる」のなら練習する意味はあるのだろうし、そうでなければやらなくても良いのだろうと思うようになりました。正解はたぶん人それぞれ。
スケールをそのまま上って下る感じの練習も、たまに思い出したようにやるのですが、アドリブの中でそういう音列を弾くことは私の場合はまずないので、それよりもスケールを意識してメロディを作ったり、スケール内の各種インターバル(3度〜7度とか)を使って何か弾いてみたり(それはスケール練習とは呼ばないのかな)。
スケールは、弾けと言われたらどんな音からもどんなスケールでも弾けないといけないのだろうけど、モーツァルトのピアノ曲に出てくるような流麗なスケール・パッセージを弾ける必要は、たぶんない。というか、それに時間を割くよりも、他のことに時間を割いたほうが良いはずだ。で、それはやはり「メロディを生み出す練習」ではないか。
メロディを生み出すには頭を使う、考える必要がある、ということをジム・ホールは言っているのではないか。勿論、本番の演奏中に「えーと…」などと考えている余裕はないけれど、普段の練習中に頭をフルに使って良いメロディを生み出す練習をしていれば、本番中にも良い感じで自分自身と、他人に対して反応できるのではないか。
「ねこじゃらし」に飛びつく猫は、「えーと…」と考えているというより、何か言語が介在しない感じの思考でパッと飛びつくように見えます。飛びつき方も一様ではない。でも迷いがあるようには見えない。ジム・ホールが「脳の活性化」で目指していたのは、そういう状態ではなかろうか、などと考えたりします(これは私の勝手な解釈)。
まず少ない音数から。次はその発展系。でも、そこからがまた大変なんだけどね、というところも、おおっ、と思いました。ジム・ホール師でさえやっぱりそういう苦労をしたんだ、と。”Less is more” (少ないことは良いことだ)的な「制限付き練習」は時々、先が見えなくなることもあるのですが、この練習を避けていたらフレーズのパッチワーク的なアドリブを越えられない。そうか、やっぱり大変なのか。でも頑張ろう。
フレーズの採譜や練習、その応用もそれはそれで大事な練習だと思うのでやっているのですが、もっと頭を使う練習、これもやらないと。と思ったのでした。ギターに限らず、ジャズの即興の練習には大きく分けて2つのベクトルがあるように最近思うようになりました。それは:
- 具体的な練習 ー 実際のミュージシャンの音楽に学ぶ。採譜・コピー。その応用。歴史に学ぶ。
- 抽象的な練習 ー 自分の力で、ある意味、理知的に音楽を作り上げる練習。自分でフレーズ・メロディをつくる。作曲する。意識的に自分のヴォイスを形成する。
たぶん上手くなるにはこの両面から攻めていったほうが良いのだろう、と思っています。具体的な練習、抽象的な練習、よりもっと良い言葉がありそうですが、いずれにしてもこの2つの方向性の練習、これを交互に繰り返していくと何か良いことがあるんじゃないか、と。
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