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「エンクロージャー」より「ネイバートーン」のほうがフレンドリーな表現だね! – John Abercrombie

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ジョン・アバークロンビーがMy Music Masteclassの教則動画で面白いことを言っていたので紹介します。

ターゲット音を主に半音下や半音上から「囲い込む」(encloseする) バップの特徴的な表現に「エンクロージャー」(enclosure)と呼ばれるものがあります。囲い込むために使用される音は「アプローチ・ノート」と呼ばれます。

John Abercrombie

このエンクロージャーというデバイスについてアバークロンビーは次のように語っています。

最初この「エンクロージャー」という言葉を耳にした時、あまりフレンドリーな言葉じゃないなと思った。エンクロージャー(囲い込み)と聞くと、小さい独房に閉じ込められているような感じだろう。脱出しないといけないじゃないか。

でも「ネイバートーン」(=neighbor tones, 隣接する音)と呼ぶと、フレンドリーじゃないか。上や下の「お隣さん」だね。「ハイ、僕はG。僕はF#だよ。そうか、仲間に入りなよ!」みたいなさ。

プロの方にレッスンを受けていると「何気ない一言にはっとさせられる」ことが多いのですが、上の言葉も示唆に富む内容だと思いました。確かに「エンクロージャー」という言葉には窮屈なイメージがあるし、囲い込まれる音が「主役」、アプローチノートは「脇役」、みたいなイメージも出てきます。

彼はクロマチシズムの達人ですが、ビ・バップの伝統的なそれとは別次元で何かやっている感じがあり、その秘密はこういう「態度の違い」にも由来するのだろうと思いました。「エンクロージャー」という概念でやっている限り、アバークロンビーやニア・フェルダーのようなクロマチシズムは多分出てこない。

人間の無意識はかなり言語化・記号化されていると聞きます。だとすれば普段何気なく使っている言葉の影響は決して小さいものではないでしょう。以前この記事で、「そもそも曲を『暗記する (memorize)』という表現に問題があるんじゃないのか」というブルース・フォアマンの言葉を紹介しましたが、こういう日常的な表現、微妙な発想の違いは大事だなと思います。

人は普段、様々な「言語や概念の罠」に陥りがちではないかと思います。トニックを見たらトニック・フレーズを弾こうとする。でも本当はドミナント・フレーズを弾いても何の問題もない。「小節線」にしても五線譜にしか存在しない。ここでは「何を弾くべきか」? いや「何を弾きたいか」のほうが重要だ…

ジョン・アバークロンビーやミック・グッドリックのようなミュージシャンは、私達のそういう凝り固まった頭をほぐしてくれる整体師のようだと感じます。

ジョン・アバークロンビーが上の言葉を語っていた最近の教則動画2本、大変素晴らしい内容です。Part 1, 2ともに、まさかのiReal音源をバックに(!)”Alone Together” を主な素材として様々なコンセプトを解説してくれます。

My Music Masteclass John Abercrombie (Jazz Guitar) 1
My Music Masteclass John Abercrombie (Jazz Guitar) 2

基本的に1990年頃にリリースされた “John Abercrombie Teaches Jazz Guitar Improvisation” とほぼ同じ内容を扱っているのですが(古いDVDのほうはStella By Starlight”が題材)、「ためになるお話」が本当に多く何度見ても飽きません。ユーモアのある、良いおじさんです。英語に抵抗がない方にはおすすめです。


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