ソロ・ギターをマスターしたいという場合、勿論ジョー・パスやタック・アンドレスやマーティン・テイラーをコピーするという手もあるとは思うのですが、それはそれで挑戦するとして、いきなりエベレストを目指すそういう練習の他に、もう少し低い山々を確実に征服して行くのも良いのではないでしょうか。
ソロ・ギター本格アレンジで弾くジャズ・スタンダード・コレクション30
学生の頃やはりジョー・パスみたいにソロ・ギターが弾けるようになりたいと思って私も “Virtuoso” から数曲コピーしましたが、そもそも指がまだできていない為、辛うじて弾けたとしても全然音楽的にならなかった。そしてジョー・パスの発想もわからないので他のスタンダード曲を「自分アレンジ」で、ソロ・ギターで成立させられない。
そこでいくつか参考書を探したのですが、当時私が手に入れたソロ・ギターの本は、日本のものもアメリカのものもあまり参考にならなかったのでした。多くが開放弦を多用できるEとかGとかCのキーでアレンジされていたり、何より音楽的に思えないものが多かった(何様ww)。しかしいま手元にあるこの本、これは素晴らしいです。
これはジャズ・ギタリスト鈴木よしひささんによる「ソロ・ギター本格アレンジで弾くジャズ・スタンダード・コレクション30」という著書です。この本、素晴らしいのです。素晴らしい点があまりに多いので箇条書きで列挙。
- 大部分の曲が一般的なキーでアレンジされている(My One…がC等の例外あり)
- でも開放弦を使った美しいボイシングもたくさん
- コードワークが現代寄り(コンテンポラリーな味付け)
- 美しいイントロとエンディングのアイデアが盛りだくさん
- さりげなくダメロン・ターンアラウンドが入っていたりとリハモもリッチ
- 開放弦を使ったペダル・ポイント等のおいしい小技も
- リズムのアイデアもたくさんあります
- 収録曲はなんと30曲(収録時間1時間45分)
- 付録CD(2枚組)の演奏が素晴らしい
- 様々なレベルのプレイヤーに対応しているところ。入門者は弾くだけでも楽しいはず。中級者はアイデアをたくさん得られる
等々、枚挙に暇がありません。ぱっと見は地味なのですが深いのです。全体的にシンプルな、これをヒントに発展させられる感じの、続きを自分で弾きたくなるような、何というか透明な感じのアレンジになっているのです(「枯葉」などは反対に意表を突いたアレンジでびっくり)。各曲の解説もとても参考になります。
そして付録CDの演奏が素晴らしい。エレガットで弾かれているようなのですが、異様な集中力と安定感の演奏。鈴木よしひささんの技術がすごいのはみんな知っているけれど、1音1音を味わいながらも淀みなく流れるような演奏で(なんか食レポみたいになってきたw)美しい。全音符が弾かれる時の「間合い」のようなものもすごいのです。
amazonのレビューを見ると「CDはおまけです」などと酷評されている方がいて、価値観って多様だなと思います。このCDは全然おまけじゃないですよ(むしろこれが本体)。ソロ・ギターを成立させるために必要と思われる様々な要素は、この記事でも書いたのですが、いちばん難しいのはたぶんソロで弾くという意志、タイム感、集中力ではないかと思います。この付録CDでは、まさにそれを学べると思います。
派手なカデンツァやフレーズが入っているわけではないのですが、鈴木よしひさ氏はジャズ・ギタリストとしてすごすぎるのは勿論作曲もすごい方なのでアレンジが本当にきれいです。これは名著ではないかと思います。「本格アレンジで弾く」の名に偽りなし。本格っていうのは弾きまくることじゃないんだよな、と改めて実感します。
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