帰宅する。ネクタイをほどき、ジェルで無理矢理七三分けにした髪をぐちゃぐちゃにし、本来のアフロヘアーに戻す。そしてソファにどっかり沈み込み、あー、いいジャズがききてー! と大声で叫び、バーボンをあおりながら再生するアルバム。高免信喜氏の “Bull’s Blues” は私にとってそんなアルバムである。おわかりいただけただろうか。
高免信喜 “Bull’s Blues”
わかんねーよ!との声が聞こえてきそうなので続けさせていただきます。「普通のいいジャズが聴きたい」と思う時があります。でも「ストレートアヘッドなジャズ」の一言で括れてしまうジャズなら、あまり興味がなかったりします。サムシング・スペシャルが絶対に必要。高免信喜氏のギターにはそのサムシング・スペシャルがあるのです。
普通にいいジャズ、などと書くと失礼に受け止められかねないけれど、普通に良い◯◯をつくるのは実はものすごく難しい。例えばいま東京には本当にたくさんのラーメン屋さんがあり、特殊なラーメンが無数に存在するけれども、昔ながらの美味しい醤油ラーメンは何処でも食べられるわけではない。「本物の支那そば」は実はハードルが高い。
高免信喜氏の音楽に最初に触れたのは下のYouTube動画でした。これを視聴した時、この人は本物だ!と思ったのでした。最高にグルーヴィーな演奏です。ジャズは世界各地でそれぞれ地域色のある進化を遂げていると思いますが、このグルーヴは日本のものではない、と感じたのでした。この演奏に惚れ込んで入手したのが上の“Bull’s Blues”。
高免さんのギターは「歌い回し」がとにかくリアルで説得力があります。フレーズの展開、仕舞い方など最高です。淀みなく湧き上がり続ける、これがジャズだよ!というリズミック・フィギュアたち。カートもクライスバーグも最高だけど、こういうジャズも最高だよね!最初にジャズに感じた魅力ってこういうものだったよね!という感じ。
あと私が好きなプレイヤーについてはいつも同じことを書いていると思うのですが、トーンが本当に素晴らしくて感動します。高免氏のトーンは一つ一つが驚くほど立体的というか、身体にコンプレッサーが内蔵されているのではないかと思えるほど粒立ちの良い音が安定的に繰り出されます。ものすごいコントロール。
ジョージ・ベンソンやパット・マルティーノに痺れたことのある人なら、“Bull’s Blues”にはグッと来るところがあるはず。いいジャズを、いいジャズ・ギターを聴きたい!そう思ったらチェックしてみてはどうでしょうか。