ぼくは巷で話題の怪獣映画「シン・ライン」を観に行った。全長118.5メートルの「巨大不明ギター」が東京湾から大田区蒲田に上陸し、激しい弦振動で高層ビルを次々になぎ倒し人々を恐怖のどん底に陥れるというサイコサスペンス・ファンタジー映画だ。
政府は「巨大不明ギター特設災害対策本部(巨災対)」を設置、自衛隊に「害ギター駆除」を目的とした出動を要請。「シン・ライン」と名付けられた巨大ギターは、かつてテレキャスター警察というカルト宗教団体によって海洋投棄された違法テレキャスターたちの怨念をエネルギー源とし、ネックをくねらせながら放射線を撒き散らしていた。
最後は自衛隊がシン・ラインのトラスロッドを限界まで回して破断させ荒れ狂うネックの動きを止め、米軍がFホールに凝固剤を投入してシン・ラインの動きを止めた。だが、いつシン・ラインがまた暴れだすか、誰にも予想はつかない。BGMは何処かで聞いたことのあるようなメロディの、陽気なF Bluesだった。
家に帰るとマイルスがソファに座ってビールを飲んでいた。
どうだった、シン・ゴジラ という話題の映画は… ?
ああ、シン・ラインね、まあまあ面白かったよ。「完全ギター」であるテレキャスターが巨大化して、東京湾に現れてさ、蒲田から赤坂に…
シン・ライン…? お前は、何を言っている…? お前は シン・ゴジラ を観に行く、と言って出かけていったはずだ…
なんてことだ! ぼくは シン・ゴジラ を観るつもりだったのに、間違えて似たようなインチキ映画を観てしまったのだ! ぼくは、1800円を騙し取られてしまったのだ! どうりで映画館はガラガラだったわけだ!
ちなみに… 映画「シン・ライン」は、西暦2018年 に中国で制作された、シン・ゴジラのパロディ映画だ… つまりパチモン、まがいもののB級映画だ…
そうだったのか… だが待て。西暦2018年…? いまは2016年だ。マイルスは何故、2年後の未来のことを知っているのだろう。
実は… 俺は西暦2036年からタイムトラベルし、ここにやってきている… お前に、大事なメッセージを伝えるために…
な、なんだって! マイルス、2036年の世の中はどうなっているのか教えてくれ! そこにはまだテレキャスターはあるのか。ジャズは生き残っているのか。人々はまだ、ジャム・セッションでコンファメーションやオール・ザ・シングス・ユー・アーの演奏を楽しんでいるだろうか…
ジャズの未来について、教えるわけには行かないが… ドナルド・トランプは最後の米国大統領になる、とだけは言っておこう… 何故なら… いや、あとは、今から中国語とロシア語を勉強しておくことだ… 何故なら2036年には…
あっ! 突然、ぼくの目の前から男が姿を消した。ソファに座っていたはずの、サングラスをかけた不良中年の姿がない。彼は消えた。彼… 彼の名前は… 彼の名前を思い出せない…! そして、ここはどこ… わたしはこんな場所で、何をやっているの…