その夜の俺の演奏は、自分で言うのも何なのだが、いつになく冴えていた。速い曲でも時間がゆっくり流れているように感じた。俺はスランプを脱したのかもしれない。
お客さんたちも割れんばかりの拍手を送っている。ドラムのクロエも、ベースのアルメイダも満足気な表情だ。
その時だった。「吉祥寺Anytime」の木製ドアが轟音とともにブチ破られ、完全武装のジャズ警察SWATチームが突入してきた。
「ギターのお前、両手を上げろ! フルアコにラウンド弦を張ってディストーションをかけている奴がいると通報があった! それと『次はFly Me To The Sunです』などと言いながら本当は『Fly Me To The Moon』を演奏して著作権料を誤魔化そうとしたらしいな!」
まずい。連中は俺にアサルトライフルAK-47の銃口を向けている。今度ばかりは留置場行きかもしれない。超高級Hi-Fiヘッドフォンで一晩中AKB48のユニゾン合唱を聴かされたり、Drop 2ボイシングのEbMaj7(3度ボトム)を6弦ルートで押さえ続ける拷問を受けなければならないのか。脳と手首が破壊されてしまう。
その時だった。ドラムのクロエとベースのアルメイダが、ファック・ユーと叫びながらスティックと弓をSWATチームに投げつけた。なんてことだ。これでは射殺されてしまう。SWATチームは俺達にライフルの銃口を向け、引き金にかけた指に力を入れる…
バンバンバン!! 銃声が轟いた。積んだ、と俺は思った。これはDrop2&4の練習をさぼってきた罰なのか。時間は止まり、過去の記憶が走馬灯のように蘇る。磯丸水産で食ったホタテは美味かった… もう一度食っておけばよかった… 死ぬ前って結構どうでもいいこと考えるもんだな…
SWAT隊員たちが前のめりに倒れ込む。撃たれたのは俺達ではなかった。俺は振り向いた ー
「マイルス!」
黒いハットをかぶり自動小銃を持ったマイルスが立っていた。マイルスは生きていた!
おい… お前はこないだのブログで俺を死んだことにしたな…
いいか、エルヴィスと俺は、まだ生きている…
勝手に殺すな…
俺達はその夜みんなで “You Are Under Arrest” を演奏した。お客さんはフロアで踊る。吉祥寺の夜に、8ビートに乗ったコンディミとクロマチックが炸裂する。今日も俺達は無免許でジャズを乗り回す。俺達は、まだはじまってさえいない ー