最近「ゆっくり弾く」練習にハマっています。ちょっとゆっくり、ではなく、ものすごくゆっくり、知っている何かを繰り返し弾く練習です。各種スケール、アルペジオ、押さえにくいボイシングを入れたコード進行、知っているフレーズ、曲、何でもスーパースローで練習する頻度を増やしています。
何を今更、と言われる方も多いと思います。私自身とても若い頃からこの練習が大事だと言われ続けてきて、自分でも確かにこれは大事だと思い、これまで定期的に続けてきました。ベン・モンダーが30bpm以下という常軌を逸した遅さでスケールの練習をするのを見て、それも真似したり。
でも、これは難しいなあ、と思うことはあっても、いまほど「この練習はものすごく楽しい」と思えたことは、かつてなかったと思います。楽しいと思えているということは、効果を感じているのだと思います。自分がやっていることの理解、テクニック、リズム感、色々なものが向上してきたと感じています。
急がば回れとはまさにこのことだったのか、という感じです。子供の頃、アメリカ人の少年が謎の日本人にカラテを習う映画を見ました。少年は「何の役に立つかわからない修行」をさせられます。クルマのワックスがけ、床掃除、ペンキ塗り。嫌気が差した彼はある時、それが「重要な練習」であったことに気付かされます。
でも思うんですが、「こんなもんやってられるか!」と日頃から思っていたら、効果は薄いんじゃないのかな。ミスター・ミヤジのように「質問はするな。意味がわからなくていいから黙ってやれ」もありなのかもしれませんが、私は意味を理解しないと続けられない性格です。
ゆっくり弾いていると、指の動きや発せられた音をじっくり観察する時間が生まれます。そこ薬指が上がらないところだ、とか、そこはレガートに繋がらないなぁ、とか、そもそもこの運指は無理があるな、等々。弾くのが難しいものほど、速度を落として再挑戦。
中国武術で「套路(とうろ・tàolù)」と呼ばれているものがあります。「一連の身体動作」のことですが、太極拳ではそれをゆっくり行うのが有名だと思います。
套路(とうろ)とは中国武術における練習方法のひとつで、連続的な攻撃方法、防御方法、立ち方(站とう法、姿勢)、歩き方(歩法、走法)、呼吸法、運気法(気功)などを総合的に盛り込んだ一連の身体動作である。(…)
複数の技が連続して組み合わさって構成されており、套路を一度行うだけで、それぞれの技とそのつながりを練習することができる効率のよい練習法である。
(…)しかし、套路はあくまでも型であるため、技の用法を練習するには、別に対人練習や実践練習を行う必要がある。
– 套路 Wikipedia
套路は緩やかで流れるようにゆったりとした動きで行うことで、正しい姿勢や体の運用法、様々な戦闘技術を身に着ける。しかし実際の戦闘における動作はゆっくりしたものではなく、熟練者においてはむしろ俊敏で力強いものとなる。なお、套路の中でも“快架”と呼ばれる速い動きのものもあり、“快架”との対比でゆったりした動きの套路は“慢架”と表現する場合がある。
– 太極拳 Wikipedia
※中国語で「慢」は「ゆっくり」の、「快」は「はやい」の意。
上の引用では、対人練習や実践練習の必要性にも触れられています。友達と一緒にギターデュオを練習する、セッションに参加するという行為に相当するでしょう。また、普通の速さで弾く・普通よりも速いテンポに付いていく練習も、別枠でやる必要はあると思うのですが、これも実践を想定した練習と言えると思います。