聞こえた音、いま弾いている音を認識する必要がある場合、主に3つのアプローチがあると思います。
その3つのアプローチとは、移動ド、実音、度数のことです(共感覚が発達している人は、12の音を異なる色彩で認識できたりするのかもしれません)。
移動ド(Movable do)は音を絶対的な「音名」ではなく相対的な「階名」として扱う考え方で、例えばC Majorにおける実音Cは「ド」。Eb Majorにおける実音Ebも「ド」。さらにA minorにおける実音Aも「ド」とする考え方です。
「移動ド」でメロディを歌えるようになると、様々なメリットがあります。単純に相対音感やインターバル感覚を強化できるのは勿論、一度聞いたメロディを間違えずに再生できるようになってきます。ただし「移動ドで歌う」のは次の2つの理由でそう簡単ではなかったりします。
- アメリカ等で普及している12音ソルフェージュではReとLe等、日本人が混同しやすい名前が付けられている
- 基本的なアナリーゼ(楽曲の和声進行分析)ができない初心者にはハードルが高い
最初の12音ソルフェージュにおける問題はどういうことかというと、12音の名前が次のようになるからです。
上昇時: Do Di Re Ri Mi Fa Fi Sol Si La Li Ti
下降時: Do Ti Te La Le Sol Se Fa Mi Me Re Ra
上昇時は母音が「-i」に、下降時は「-e」に変わるという法則です(例外あり)。しかし日本人の多くはRとLの音を区別できません。ReとLe、LaとRaの区別が難しいのです。Lは舌を上歯の裏側に付け、意識して使い分けると良いのかもしれませんが慣れないと難しい。さらにSiが「ドレミにおけるシ」に似ています。
自由を手に入れるためのツールなのですが、そのツールを使いこなすのがまず結構難しい。日本人にとっては直感的でもありません。
もう一つの問題は、トーナル・センターを判別または決定する能力(いま何調なのか)が必要なこと。さらに部分転調時に、それを転調として扱うのか、元の調のまま行くのか等、特に初心者にはハードルが高い。初心者にこそ大きいメリットがあるはずのツールなのに、初心者には難しいというジレンマがあります。
RとLの区別も出来る、調性についても自分なりの理解と考え方を持っている、という方であれば、取り組まない理由はないかもしれません。
ところでジャズ・ギタリストで「いつも移動ドでメロディを感じている」人はどのくらいいるでしょうか。私がこれまでに交流した人々や、これまでに教えてもらった先生たちは、意外にも「移動ド」メインの人はいませんでした(ただしプロの方は「その気になったらすぐに移動ドで歌える」方がほとんど)。
音を実音と度数の組み合わせで認識する人がいちばん多いように感じます。C IonianにおけるC音はC音。A Aeolianにおける第3音も同じくC音。今鳴っているこのCm7におけるDは9度(または長二度)の音、という把握の仕方です。
移動ド12音ソルフェージュを身につけることによる絶大なメリットは確かにあると思うのですが、もう10年も20年もギターを弾いている、という人が今から始めてどれだけの効果があるかは少し疑問です。
ただ、相対音感の問題で悩んでいる方、いつも曲のメロディを間違えしまう、頭の中で鳴った音を実際に弾こうとすると間違える、という方は、試してみるとセラピー的な効果が期待できるかもしれません。
ジャズ ソルフェージュ : ジャズ・ミュージシャン ボーカリスト 作曲のための移動ド ソルフェージュ(12音)とイヤー・トレーニング移動ドによる12音ソルフェージュで歌うことも、実音と度数を気にしながら弾くことも、どれも練習時には非常に効果的だと思います。誰も本番演奏時にはそんなことはまるで考えないと思いますが、練習時には意識しておくのが大事だと思います。
本番演奏時はたぶん誰でもこんな感じでしょう:おおっ・これだ!・いいね!・むむっ・Yeah!・えーっ!! とか(意味不明でしょうか)
移動ドは私も大昔に取り組んだことがあります。スタンダードの簡単なテーマや、誰でも知っているリック的なフレーズは頭の中で移動ドで保存されていることが多いです。しかし普段は実音と度数の組み合わせが多いです。このAbはG7のb9、というふうに。
どれかがベストの方法というのではなく、これらを上手に組み合わせることが大事なのでしょう。