GibsonのフルアコES-175。そしてセミアコのES-335。これらの「あまりにも特別な」ギターについて少し書いてみたいと思います。
下の写真左がES-175の、右がES-335の「抽象的な」姿です。勿論、この写真の現物は実際の個体として存在したものと思われます。抽象的な、と書いたのは、どちらもあまりにも年代によって細部の仕様が異なり、同じ年代の製品でも個体差が非常に激しいからに他なりません。
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その意味において、「ES-175」というギター、「ES-335」というギターは実は何処にも実在せず、私達の心の中にのみ存在するのかもしれません。
ー完ー
いや、もうちょっと続けます。
ES-175とES-335はある意味でジャズ・ギターのイデアというか、ジャズ・ギターにおけるカルチュラル・アイコン的な存在と言えるかもしれません。それぞれ、ジャズ・ギターといえばこれ、という1台といっても良いでしょう(勿論L-5とかSuper 400とかES-330とか他にも色々あるのですが、それはまた別途)。
これらのギターをメインで愛用されている方は多いでしょうし、メインでなくともサブギターとして所有している方も多いでしょう。所有していなくとも試奏したり、一度は購入を検討したことがある(ジャズ・)ギターファンは決して少なくないものと思われます。
余談ですが、ES-335を倒してネックを折ったことがあるギタリストの知人、私は少なくとも5人知っています(もはや「ジャズ・ギタリストあるある」と言えるレベル)。335についてはブルース系ギタリストからの支持も大変大きいですよね。ジャズを越えて、広くセミアコの代名詞みたいなところがあります。
私の友人・知人のギタリストも、恐らく60%以上がES-175とES-335をメインで使用しています。しかし、何故175なのか? 何故335なのか? あまりにも当たり前すぎてそんな話が持ち上がることさえないのが、よく考えると不思議です。
個人的な印象として、プロ活動されている方がこれらのギターを好むというのがまずあります。理由の一つは営業的なもの。特にES-175(と、それに近い外観のフルアコ)は、どんな現場でもまず間違いがない(楽器について文句を言われることがない)のだそうです。
例えばウェディングでの演奏のような仕事がある場合、Fender TelecasterではなくES-175を持っていくのが無難、ということがあるらしい。これは音色の良し悪しではなくドレスコード的な意味合いが強いらしいです。
また、アマチュアの場合は、自分に合ったギターをあれこれ試すのに疲れてしまって、もうこれでいい、という感じで最終的に175や335に落ち着いた、という人が多いように思います。しかもほとんどの人が新品ではなくヴィンテージを入手している印象。
この国には一体どれだけの数のオールド175と335が存在するのだろうか、と驚くほどみんな1台は持っている印象があります。そりゃあアメリカ人も激おこぷんぷん丸になるのもやむなし、と思います。
ES-175。このギターを使用していたギタリストを思いつくままに列挙してみます:ジョー・パス。ジム・ホール。パット・メセニー。グレッグ・ハウ。ジョナサン・クライスバーグ。ES-335は、ジョン・スコフィールド、カート・ローゼンウィンケル、ラリー・カールトン、エリック・クラプトン、BBキング。
上記の人々はほんの一例で、実際は枚挙に暇がないのはこれを読まれている皆様御存知の通り。
でも何故これほどまでにこの2機種は人気なのでしょう。多くのフルアコとセミアコが175と335を「標準」として設定し、それに近い、あるいはそれを超えるギターの開発を目指してきました。日本が誇る渋谷ウォーキンのArchtop Tributeにも175・335のコピーがあります。追いつけ追い抜け175・335という感じです。
とはいえ、「ES-175」も「ES-335」も、ほとんど抽象的な記号でしかない、と言って差し支えないくらいに年代によって仕様が違います。ネックのシェイプや太さも、ディメンションも、材質も、カッタウェイの形状も、搭載ピックアップも何もかも年代によって相当違う。当然音も違う。
一体何故私達はES-175やES-335というギターにこれほどまでに惹かれるのでしょうか。個体差は激しいながらも、「この音はギブソン以外からは出ない」というサウンドは、まあ確かにあると言って良いとは思います。とはいえ、一体何故なのか。何故これほどまでに多くの人々が、175と335に辿り着いてしまうのか。
工作精度は褒められたものでなし、ビンテージ物はネックの塗装がベタベタになるし、クルーソンのペグにしても決して使いやすいものではない。では一体何故なのか。他のギターでも良いのではないか。他のギターだっていいじゃないか。
と、壁にひっかけてある私のメインギター2本、ギブソン社のフルアコとセミアコをちらと見やりつつ、これを書いているのでした…。
せっかくなのでこのブログの投票機能を利用してミニアンケートを実施してみたいと思います。このブログを時々読んで下さっている方々は勿論何らかの形でジャズ・ギターと関わりがあると思うのですが、やはりこれらのギターを使用されたことがあるのでしょうか。宜しければご参加お待ちしています。