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コーダルとモーダル

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コーダルとモーダルという概念について考えてみます。コーダル(Chordal)は文字通り「コード的な」という意味。モーダル(Modal)は「モード的な」という意味です。

語呂が良いので「コーダルとモーダル」という言葉を選んでみましたが、後者の「モーダル」はいわゆる「モード・ジャズ」におけるあの「モード」ではなく、この記事では「スケールに重点を置いて発想する」という程度の意味なので、本当は「スケーラー」(Scalar, スケール的な)という言葉の方が適切かもしれません。

コーダルな発想の長所と短所

よくジャズ初心者に与えられるアドバイスに、「コード・トーンを拾って弾くとそれっぽくなるよ!」というものがあります。トライアドでも良いし、セブンス・コード内の1357音でも良い。つまりアルペジオ。とりあえずテンションを外し、コードの構成音だけで、または構成音を強く意識して弾く。それが「コーダルなアプローチ」だとする。

コーダルなアプローチの良いところは、コードを線的にアウトラインする行為であるため、音さえ間違えずに拾いつつメロディを組み立てていけば、ソングのコード進行が自ずと聞こえてくるところ。自由にアドリブしても大きく破綻するリスクは少ない。

ただしこれは「コード進行を表出させやすい」という意味では強力な方法論ではあるものの、任意のポジション内でその曲の全てのコードのアルペジオを、良いヴォイス・リーディングを意識してスムーズに弾くことは、初心者にとっては多分簡単なことではないし、トライアドで済ますにしても、考えずに全ての転回形が出てくるくらいのスキルがないと、あまり音楽的な結果が得られなかったりする。

もう一つの短所としては、コード一つ一つを追いかける行為であるため、せわしない表現になりがちであるという点。コーダルに考え、弾けることは非常に重要だけれども、「木を見て森を見ない」症候群に陥らないよう気をつける必要がある。

またコードチェンジの多い曲や、そうでなくともテンポの速い演奏ではコードのことを考えている時間がないので、他のアプローチも持っておく必要がある。同じコードが連続して数小節続くような場合も、アプローチ・ノートの併用で乗りきれるかもしれないけれど、やはり他の武器も持っておきたい。

モーダルな発想の長所と短所

モーダル(またはスケーラー)なアプローチの良いところは、ソングの一定区間に何らかのトーナリティー・スケールを設定すれば、一つ一つのコードにとらわれることなく、余裕を持って大きくメロディを展開できるところ。

例えばF bluesならF blues scale一発で弾く、というのはモーダルなアプローチ。Key in CのDm7-G7-Em7-Am7という逆循環進行に対して、C Ionianを設定し、それ一発で弾くというのもモーダル。コード一つ一つに振り回されることなく、その時に支配的な調性を感じ取り、その中で自由に動きまわる。各種インターバルとリズムで楽しく遊ぶ。

モーダルなアプローチにも気をつけなければいけないことがある。訓練不足の場合、単にスケールの上昇下降運動で終わってしまったり、その時鳴っているコードと相性の悪い音を強調してしまったり、コード感が極端に希薄な演奏になったりする点。これを克服するにはスケール内の全てのインターバルを高いレベルで自在に操れて、演奏中はその時々のコードトーンを自然に意識できている状態にならないといけない。

モーダルな発想では、より横方向の線的な流れを意識したクリエイティブな演奏に取り組みやすいという点で、これも初心者にとって良いものだと思える反面、「どのトーナリティ・スケールを設定するか」はある程度和声理論を理解していないと難しかったりする(その理解は、必ずしも頭による理解でなくとも良いと思う)。

コーダルでもモーダルでもなく

ところでコーダルやモーダル(スケーラー)という概念は、こうやって言葉で考える時や、練習時には有効なツールではあるけれど、本番演奏時にそんなことを考えている人は多分いない。実際の演奏はこの二つのアプローチが渾然一体となっている。8分音符の最初の4音がアルペジオで最後の4音がスケーラーな表現だったりする。古典的な美しいフレーズを観察するとバランス良くコーダルでモーダルな姿をしていることが多い。

そういえばジョン・コルトレーンやデクスター・ゴードンが、例えば2小節にわたるFΔ7の上で、F Major Scale内のダイアトニック・トライアドを次々と上昇しながら吹いていくことがある。あれはコーダルな表現とモーダルな表現がほとんど同じ強さで表出している例としてわかりやすいかもしれない(バップでよくある表現だけれど、わりと鋭角的なサウンド)。

バーガンジの有名な4音スケール(メジャーコードでの1235, マイナーコードでの1345)は、コーダルとモーダル両方の長所と短所を踏まえたところから出てきたアプローチという気がする。とても教育的な感じがする。ある意味折衷案。

人間の身体と精神を分けて論ずるのは馬鹿げている、という人がいる。身体と精神は一体なのだから、分けて考えるのはおかしいじゃないか、と。確かにそれはそうなのだけれど、自分を改良していくために人間は頭を使って考えなくてはならないし、思考は二項対立的な概念からは逃れられない。Let’s face it.

優れたプレイヤーの演奏、自分のどうもビミョーな演奏を、コーダルとモーダルという視点で最近集中的に聴き直してみたところ個人的には良い発見がたくさんありました。

そんなふうに、コーダルのこういうところがいいな、こういうところが難しいな、モーダルのこれは便利、これが難しい…という感じで練習を繰り返していくうちに、「コーダルだかモーダルだかよくわからないけど自然にいい感じのメロディが弾けるようになった」という状態になっていく。だから両方練習しよう、というのがこの考察の(かなり当たり前の)オチなのかもしれません。

どんなプレイヤーもコーダルな面とモーダルな面が渾然一体となっているのが普通とはいえ、いまふと思ったのですが、私の頭の中ではビル・フリゼールとセロニアス・モンクはコーダルな印象が強いです。なんだろう。あの二人は本当にどこかおかしい。


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