昨日、マラソン女子の福士加代子選手がリオデジャネイロオリンピック女子マラソンの代表選手に選ばれたそうです。
先日の大阪国際女子マラソンで日本陸連が定める派遣設定記録の2時間22分30秒を上回る記録を出した福士選手は「リオ決定だべ!」と満面の笑みで自信たっぷりに、誇らしげに言い放ちました。
その姿をテレビで見ていて、正直に言うと私はぼんやりと「なんだこのいけ好かない姉ちゃんは、ドヤ顔しちゃってさ!」と思ったのでした。何か微妙な違和感を覚えたのでした。この人は身近にいたら、苦手なタイプかもしれない、などとも思いました。
しかし今日あらためてテレビに映っている福士選手を見ていて、私はあることに気付きました。それは彼女がいつも笑っているということです。試しに画像検索してみると、そこには圧倒的なまでの福士選手の笑顔が羅列されます。
目蓋はいつも楽しそうなアーチを描いていて、口角はキュッと上がっている。人間という生物が楽しい時に笑みを浮かべるものだとしたら、この人は多分朝起きて寝るまで楽しく過ごしているのだろう。いや、ことによると布団の中で熟睡している時でさえこんな楽しそうな顔なのかもしれない。そう思ったのでした。
「リオ決定だべ!」という台詞をニコニコと言い放つ超楽天的で自信たっぷりな福士選手の「ドヤ顔」に私が抱いたあの違和感は、一体何だったのか。よくよく考えると、あれは単なる嫉妬だったのではないかと思うようになりました。
私は残念ながら福士選手のように一日中あんな楽しそうな表情をしていられる自信がありません。福士選手を見ていると、こちらも楽しくハッピーな気持ちになってきます。この人には何か特殊な才能がある、と今では感じています。
話は変わってジャズ・ギタリストを想起してみると、同じようにいつも笑みを浮かべているギタリストにパット・メセニーがいます。勿論演奏中はかなり苦しそうな表情になることもあるけれど、どんなにリリカルでマイナーな曲を弾いた後でも観客の拍手にパットは満面の笑みで “Thank you.” と答える。
ニコニコと頷きながらアリーナを埋め尽くす観客たちを眺め、オフ・マイクでまだ “Thank you. Thank you.” と言っているのがわかる映像もある。笑顔が印象的なジャズ・ギタリストいえば、他にもジョージ・ベンソンやマイク・スターンを思い出します。日本では、すぐに思い浮かぶのは小沼ようすけさん。
勿論、ジョン・アバークロンビーやジョン・スコフィールドのように苦しげな表情が支配的なギタリストもいる。眉間に皺を寄せ、今にも死んでしまいそうな、喘ぐような表情で彼等は弾く。そんな彼等の演奏も私は大好きでたまらない。だから必ずしも笑顔をキープすることが大切ではないのかもしれない。
しかし笑顔でいることは、まず普通に考えてリラックスしている状態なわけだから、身体は脱力しているはず。演奏において脱力ほど重要なものもないのではないか、と最近よく感じます。緊張してカチコチになっていればリズムは乱れるし指も動かない。アイデアもびっくりするほどスタックする。
やっぱりニコニコしているほうがいいと思うわけです。福士加代子選手の笑顔は、パット・メセニーのそれにすごく似ているように私の目には見えます。そのため私はマラソンのことは全く知らないのですが、「この人はすごく走れる人なのではないか」と思いました。
「リオ決定だべ!」とドヤ顔で叫んだ福士選手。なんだよ、この自信満々な人。そんな印象を持ってしまった自分が今では恥ずかしい。あんなふうに人前でずっと笑顔でいるのは、本当は大変なはずだ。もし本人にとって大変なことでないとしたら、なおさらこの人には才能がある。そう思ったのでした。