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Turnaroundを考える : 何処に向かって弾くか

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ジャズ・スタンダード曲の多くは “Turnaround”(ターンアラウンド)と呼ばれる短い区間を持っています。

Tunaroundとは

曲の最後の2小節に「I – VI7 – IIm7 – V7」的なコード進行を見かけることがあると思います。また「Aメロ」のリピート部分にも多く存在します。これが “Turnaround” と呼ばれる区間です。”Turnaround” という用語は英語の “Turn the tune back around” (曲を頭に戻す)に由来しています。稀に “Turnback” と呼ばれることもあるようです。

ちなみにこの記事で分析した「枯葉」のCセクションに Gm7 – Gb7 – Fm7 – E7 という箇所があります。これは曲の途中で使われていますが、これもTurnaroundの1種と考えて良いと思います。

Turnaroundには数多くのバリエーションが存在します。それらはよくわからないままに丸暗記して覚えるよりも、どのように成立しているのか一度きちんと理解したほうが早く身体に染み込むと思います。

Tunaroundのバリエーションを観察する

Turnaroundの最も原始的な形態は何だろう、と考えてみます。Turnaroundの目的は、曲なりメロディなりを「頭に戻す」ことです。戻るためには勢いが必要です。勢いのあるコードは「4度上に解決したがる」ドミナント・セブンスです。もっと勢いがあるのはオルタード・ドミナント・セブンス。だから、

I – V7(alt)

最初はこれだけだったはず。例えばF Majorの曲だったら、FΔ7に解決した後、もう1度C7を弾くことで曲の先頭に戻る。原型はこれだけだと思います。これをゴニョゴニョしていくと様々なバリエーションが「自然に」導かれます。例えばあらゆるドミナント・セブンス・コードはツー・ファイブ化できます。そのため、

I – IIm7 – V7

という変種が生まれます。黒本に掲載されている「酒バラ」の最後のF – Gm7 – C7がこれです。さらにFからGm7に移動する際、より強い勢いで移動したいとする。この時、Gm7の前に4度下のドミナント・セブンス・コードを無理矢理設置します(「セカンダリー・ドミナント」と呼ばれます)。その結果、

I – VI7 – IIm7 – V7

という進行が誕生します。これが恐らく最も一般的なTurnaroundと言って良いと思います。そしてこの進行は「循環」または「イチロクニーゴー(1625)」とも呼ばれます。ところで次のようなバリエーションもあります。

I – VIm7 – IIm7 – V7

VI7のかわりにVIm7を使用。これはダイアトニックのマイナー・コード。機能はトニック。トニック・トニック・サブドミナント・ドミナントという進行です。これも難しくないと思います。他にもこういうのがあります。トニックのIを同じトニックのIIIm7に置き換えたものです。

IIIm7 – VI7 – IIm7 – V7
IIIm7- VI – IIm7 – V7

これは「サンロクニーゴー(3625)」と呼ばれます。ジャズには「循環の曲」と呼ばれるものがあります。”Oleo” や “Anthropology” 等です。これは元々George Gershwinの “I Got Rhythm” という曲のコード進行を下敷きにしているので英語では “Rhythm Changeの曲” (Changeは「コード進行」の意)と呼ばれるのですが、「循環の曲」のAメロは多くの場合「1625と3625」で成立しています。

ところで「枯葉」のGm7 – Gb7 – Fm7 – E7は、以下のようになっていますが、どう考えれば良いのでしょうか。これは「着地点」がEb7(EbΔ7でも良い)なので、

IIIm7 – IIIb7 – IIm7 – IIb7

です。ぱっと見た感じ「1625」や「3625」と似ていないので「貴様、何奴!」と刃を突きつけてしまいたくなりますが、これは「3625」のバリエーションです。VI7とV7をそれぞれ、増4度関係にあるコード(=裏コード)と置換しただけです。その結果、ベースラインが半音で下降するきれいな進行が誕生しました。

バリエーションを生むための3つの方法論

ここで一度まとめます。Turnaroundのバリエーションはほとんどの場合、今まで見てきた3種類の発想から生まれてきます。以下の3つです。

  • ツーファイブ化
  • セカンダリー・ドミナントの挿入、またはセカンダリードミナントへの置換
  • 増4度関係のコード(裏コード)への置換

これだけ押さえておけば「これTurnaroundっぽいけどなんでこんなヘンなコード進行(またはフレーズ)なんだろう」と思えるものもほとんど分析できます。例えば次のTurnaroundは “Bye Bye Blackbird” のCセクションの最後に登場するものです。

bIIIm7 – bVI7 – IIm7 – V7 (in F: Abm7 – Db7 – Gm7 – C7)

これも「貴様、何処から現れた! 名を名乗れ!」という感じの進行ですよね。最初のAbm7 – Db7に独特の浮遊感があります。これは最初に、どうということのない、下のような1625があったとします。

FΔ7 – D7 – Gm7 – C7

この中のGm7 (IIm7) を「増4度関係のドミナント・セブンス・コード(裏コード)」と置き換えます。すると以下のようになります。

FΔ7 – D7 – Db7 – C7

今度は裏コードとして登場したDb7を「ツーファイブ化」します。すると

FΔ7 – D7 – Abm7 – Db7 – C7

さらにC7をツーファイブ化します。すると

FΔ7 – D7 – Abm7 – Db7Gm7 – C7

そして最初のFΔ7 – D7を撤去します(えっ!!)。すると

Abm7 – Db7 – Gm7 – C7

になります。結果的に「短いツーファイブが半音下降する素敵な進行」が得られます。勿論このコードを想定したフレージングを、普通の1625や3625のTurnaroundで弾いたりすると不思議な効果が得られたりします。

せっかくなのでもう1つ見てみます。”I’ll Close My Eyes” のTurnaroundは、黒本によれば以下のようになっています。Key in F。

Am7 – Ab7 – Gm7 – C7 (IIIm7 – bIII7 – IIm7 – V7)

3625に似ていますが、「おいbIII7とか申す者、貴様何者だ!」と尋問する必要はもうありません。Key in Fの3625の「6」はD7(Dm7)。D7の増4度関係のドミナント・セブンス・コードは、Ab7です。次にもう一つ見ておきます。

F7 – D7 – G7 – C7 (I7 – VI7 – II7 – V7)

こんなふうに全てをセカンダリー・ドミナントに置き換えるのもあり。曲ではあまり見ないのですが、バップのプレイヤーのコピーをしていると上のような発想のフレージングに遭遇することがあります。

Tunaround上で何を弾くか

最後にフレージングについて考えます。曲に書かれているTurnaroundをきっちりそのまま弾くのもいいし、それができるスキルは必要だと思います。しかしテンポが速い場合律儀にコードを追ったフレージングをするのは現実的ではなかったり、音楽的でなかったりすることもあると思います。

色々なプロの音源を聴いていると、Turnaroundでは「もっと自由に・大きく発想している」ことが多いと感じます。ここでこの記事の一番最初に紹介した「Turnaroundの最も原始的な形態」に立ち戻ります。それはこういう形をしていました。

I – V7

Turnaroundの目的は「頭に戻る」ことでした。つまり頭に戻る、あるいは意図した地点に着地するドライブ(駆動力)を生み出せれば、途中で何をやっても構わないと言っても良いのだと思います。上で観察したTurnaroundのバリエーションはどれも和声理論としては破綻していないものですが、別に機能和声にこだわる必要もないでしょう。

ではその「ドライブ」は何から生まれるか。それはモチーフだったり、耳に残る印象的なパターンだったり、数的秩序だったり、反復だったり、完全な無秩序だったり、色々あると思います。ある意味でTurnaroundは想像力と創造力を爆発させられる格好の舞台とも言えると思います。

「これは何のコードだろう?」と考えて弾く・弾けることも大事だと思いますが、やはり「水平方向のロジック」が通っているほうが音楽的に面白いと感じます。これは従う・対峙する・突き進むという記事で触れた「突き進む」というアプローチと関係があると思います。

例えるなら「今は学生なので勉強します。今は会社員なので仕事します」と、「その時その時の状況」に応じてやることも大事。と同時に「今は学生だけどDJが好きだからDJをやる。会社員になったけどDJが好きだからやっぱりDJをやる。行き着く先はDJ」みたいな発想も大事ではないでしょうか。

過去に色々なプレイヤーのTurnaroundをコピーしまくったことがあるのですが、あえて何も吹かなかったり、ペンタだったり、V7の3度だけ意識していたり、Tunaroundを完全に無視して直前のモチーフを継続したり、着地点がかなり遠かったりと、色々なパターンがありました。

コピーしたフレーズは勿論自分のものになった(ものもある)のですが、「一体何考えてこれ吹いてる・弾いてるんだろう?」と考えるのが面白く、得るものがありました。「コルトレーンはこういうこと考えてフレージングしたのかな」という仮説を立て、それを基に自分でやってみる。そういう練習も面白いです。


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