ムック Jazz guitar book vol.37 にて、「親指弾きの魅力」を問われたジョン・アバークロンビーは次のように答えています(インタビューと文は石沢功治氏)。
なんと言っても親指と弦が直接触れる感触が堪らない。自分の肉体とギターとがより繋がっているというか、一体感がある。それに、ピックだとどうしても速いフレーズやテクニカルなプレイに行きがちになってしまう。指弾きでも頑張れば出来ないことはないんだろうけど、それでもハンディを背負うのは確かだ。それを差し引いても、指弾きのトーンは魅力に余りがあるほど素晴らしいと感じる。
現在では親指弾きの貴重な名手となっているアバークロンビー。親指のダウンストロークと左手のハンマーオン、プルオフを併用し時折速いパッセージも繰り出すのですが、その最大の魅力はやはり「その時々で最高の音を探して、それを丁寧にはじていく・歌っていく」あのクロマティックなメロディセンスでしょう。
ところで「指弾き」に関して、アバークロンビー先生は上で3つの側面に触れているように思います。
- 一体感がある
- 速いフレーズやテクニカルなプレイにあまり行かなくなる
- トーンが素晴らしい
ピック弾きとはトーンが違うのはわかる。奏法的な制限から速いフレーズを弾かなくなるという特徴もわかる。私が気になるのは最初の「一体感」というところです。私自身は親指弾きは全く得意ではないのですが、時々やってみるとやはり異様な「一体感」を感じます。
その「一体感」というのは、単に情緒的な事象ではなく、「音楽の発生」に密接に結びついたものであるように感じることがあります。何かこう、フレーズが生まれる感覚が違うと感じることがあります。ギターとの一体感もありますが、それ以上に「自分の中の音楽」との一体感が強まる気がします。
たぶん、息を吹き込んで音を鳴らすホーン奏者というのは基本的にこういう感覚なんじゃないか、とも思います。
当然のことなのですが適当な音とか絶対に弾けません。何を弾くか。何を弾きたいか。何が聴こえるか。それはどれだけ明確なのか。本当にその音を弾くんだな? という感じで、指弾きはすごく「音楽的な練習」に感じられます。間違った音を弾いても「お〜、すげーヘンなの弾いちゃった!!」と何故か笑ってしまう。
ダウンストロークのみで、例えば8分音符と4分音符縛り。さあどんなふうに音楽できるか? 感覚のリセット的な効果もあり、16分音符のピック速弾き練習に疲れたらこれをたまにやります。これがすごく楽しい。