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変わらない自分、変わりゆく世界。その中で変わっていく自分の意味。

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11/8にアップされていたYouTuber Jazz Duets氏の動画に感動しました。ジョン・スコフィールドの私の大好きなアルバム”Still Warm”(1986)から”Rule of Thumb”(=「経験則、経験から学んだ法則」の意)という曲を分析しているのです。この方は、本当に素晴らしい。大好き。

ジョンスコの”Still Warm”は個人的にはじめてオン・コードを意識したアルバムのひとつだったのですが、この動画では”Rule of Thumb”という曲で「固定されたトップノート」と「半音で上昇するベースライン」がどのように使われているかが解説されています。あと、部分は変わるけど大まかには反復されるオスティナート・メロディのこと。

移りゆくコード進行の中にありながら、ずっと変わらない自分。それでも変わらない世界の中で、変わっていく自分の意味。コモントーン(共通音)という音楽的手法は、変わっていないのに変わっている、自分でありながら自分ではない、という、ある種の「アイデンティティの揺らぎ」を感じさせるような、不思議な感動を与えてくれるもので、私は大好きなのです。

私は、Gだ。Gのルートだ。Cの5度だ。C#dimの、減5度だ。次に私は、何になるのだろう。何という名前で呼ばれるだろう。どんな役割を持ち、どんな色彩を帯びるだろう。でも、いずれにせよ、私はわたし、Gなのだ。

コモントーンとは、そういう表現。私にとっては。

新幹線で移動する時、よくコモントーンのことを考えます。窓側の席が好きなので、そこに座ります。窓外の風景は次々に変わっていきます。でも座席に座って緑茶を飲んでいる私という存在は、変わらない。周囲だけが次々に変わっていく。コモントーンは私。コード進行は外界です。飛行機の時は、窓外はいつも空なので、これはあまり体感できませんが…

さてここまでを読んで、ほとんどの方がピンと来たと思います。これはジョビンだ、と。そう、動画ではみんな大好きアントニオ・カルロス・ジョビンの話も出てきます。One Note Samba. Instensatez.そういう曲は他にもいっぱいある。そしてセッションでも当たり前のように取り上げられる、スティーヴィー・ワンダーのあの曲も。

Author: Tore Sætre License: CC BY-SA 4.0

ジョン・スコフィールドの音楽は本当に不思議ですねぇ。自然とさと不自然さが同居していて、マイルス譲りの現代的なクロマティシズムとブルース由来と思われるそれとが同居している。そして、それら全ての「揺らぎ」を統率するものとしてのリズムとグルーヴ。

伝統と革新の融合。分解と統合。そしていつも、愛と情熱がある。というか、それ以外に何もない。若い時からずっとそう。もう、只者ではないですよ。

Jazz Duetsさんの動画は、いつも思うのですが、単なる演奏解説、理論解説を超えています。異なる複数のものの中から、あまり気付かれていない共通項に着目し、そこをクローズアップして新しい価値、新しい文脈を生み出す、という作業ではないかと私は感じます。美術館の薄暗がりに座っている、親切で物知りで、なおかつ絵画愛に溢れた優しいキュレーターさんのような人のように思えてきます。

これはクリエイティブな活動であって、YouTubeに星の数ほどある理論解説動画とJazz Duets氏の仕事とを差別化していると思います。あと面白いのが、この方のメイン楽器はソプラノ・サキソフォンなんですよね。そういう方がこうしてギタリストに注目されているのも面白いなと思います。

それにしても、この方の選曲のセレクションといい、デモンストレーション演奏といい、いつも個人的にツボります。私はこの方の活動を支えたいので、たまにPDFの譜面を買っています。皆さんも宜しければチャンネル登録されてみて下さい。


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