何はともあれ、これらの動画を見ていただきたい。こういう企業CMの動画は寿命が短く、これも数週間後には「この動画は再生できません」という文字とともにこのページにざんねんな彩りを与えているかもしれないのだが…
マジでしょうもないCMです。と、最初はそう思った。
この「保険見直し本舗」のCMには、これ以前にも謎の小さい生物を研究している亀梨和也扮する研究者が餃子を食べながら、「ミナオ、酢!」と叫ぶバージョンもありましたが、はじめてそれを見た時は、正直腹が立ちました。何が面白いのかまったくわからなかった。1mmも面白くなかった。ただこういうのは受け取り方が人によって全く違うので、あれで笑った人もいるんだと思います。
そういう場合、私は「こんなの何が面白いんだ」と批判はしません。人間が完全に相互理解できるというのは幻想です。わかりあえないことはいくらでもある。しかしそこを是々非々でやっていくのが大人の対応なのであります。このCMシリーズも、好きな人はたくさんいるんでしょう。
さて上の「ぽぅ!」や「みんな、押して! 皆、押して!」バージョンを何度も見るうちに、「保険見直し本舗」のCMにはある種の一貫性があることに気付きました。それは機能和声理論における「ピボット・コードによる転調」と同様の手法が使われているところです。そして少しづつ、これらのCMの評価は私の中で変わってきました。このCMシリーズは、結構すごい。攻めている。
ある調からある調に転調する場合、様々な方法があると思いますが、その中のひとつが「ピボット・コード」の使用。2つの調に共通して存在するコードを回転軸(pivot)にして遷移する手法。
最初のCMで言うと、「ぽぅ」は何を意味しているかは不明ですが、ストーリー性のある長いCMの中のこの「ぽぅ」という部分だけがピボットとなり、「保険見直し本舗」の「ぽ」として機能する。これはもうなんかCから最も遠いF#に移調したような具合です。
と書こうと思いましたが、C MajorとF# Major(######)に共通する和音はありません。Db(bbbbb)やB(#####)はどうだろう。ない。Ab(bbbb)やE(####)はどうか。ない。Eb(bbb)とA(###)はどうか。これもない。
Bb(bb)はどうだろう? おっ、Dm/Dm7がある。ポゥ! ポゥ! F/F7があった。ということはD(##)にも… おっ、Em/Em7がある。GトライアドもOK。ポゥ! ポゥ!
F(b)は? F/FMaj7がある、Am/Am7がある、Cトライアドがある、Dm/Dm7がある。ポゥ! ポゥ! ポゥ! ポゥ!
G(#)は? Gトライアド。Am/Am7。Cトライアド。Em/Em7。ポゥ! ポゥ! ポゥ! ポゥ!
ポゥ!
ポゥ!
しかしである。これはメジャーキー同士でのピボットの話にすぎず、実際には同主調変換した上でのサブドミナントマイナーコードが他調とのピボットになる場合もあれば、コードネームの他にコードの機能をピボットとして使用する場合もあり、実態はより複雑である。
例えばCでFmやAbを使っていたら、それらを含む様々な調が転調先になりうる。CからCmへの移行も、トニックという機能をピボットとしていると言えるだろう(あるいはCとGが「ピボットノート」となり、3度が変わることで別キーへ転調したと言ってもいいだろう)。
つまり一言で言うと、ポゥ!なのである。大切なのはポゥ!。もっとポゥ!。