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レッド・ツェッペリン「天国への階段」裁判 盗用という言葉は適切か

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レッド・ツェッペリンの名曲「天国への階段」のイントロが「スピリット」というバンドの「Taurus」という曲からの盗用であるとして北米で裁判が起こされたのは2016年。当時ロサンゼルス連邦地裁はこれは盗用には当たらないという判決を下したのですが、つい先日サンフランシスコ連邦高裁がこの判決を破棄し、審理を地裁に差し戻しました(Led Zeppelin to face new Stairway to Heaven trial)。

スピリットというバンドの「Taurus」は、こんな曲です。0:44からはじまるギターのアルペジオ、最初の4小節の部分が「盗用元」ではないかということでモメているようです。AmでベースラインがA→Ab→G→Gb→Dと下る箇所。確かに「天国への階段」に似た発想で、雰囲気も何となく似ています。

ジャズの世界でこの手法は「クリシェ」と呼ばれていて、有名どころでは”My Funny Valentine”のAメロのベースライン。内声が半音で上がったり下がったりする「クリシェ」もあり、スタンダード曲だと”I’ll Remember April”の4〜8小節目もその1種と言えるでしょう。ロックの世界ではビートルズの”Michelle”もクリシェを使っていることで有名。

「天国への階段」は1971年の録音。レッド・ツェッペリンは1969年にスピリットと同じ野外フェスで共演しており、その存在は認知していた模様。ポール・マッカートニー作曲の「ミッシェル」は1965年録音。

コード進行に著作権は存在するか

ところで特定のコード進行に著作権は発生するのでしょうか。基本的には著作権は発生しないと言われています。ジャズのスタンダード曲では同じようなコード進行の曲がたくさんあります。というか、先人へのオマージュとして「有名な誰それの曲のコード進行をそのまま使い、その上にメロディをのせる」という愛のあるイタズラ的な作曲も多数あります。

例:レニー・トリスターノの”327 East 32nd Street”はジョニー・グリーンの”Out of Nowhere”と、ジョン・スコフィールドの”Not You Again”はハリー・ウォーレンの”There Will Never Be Another You”と同じコード進行。ガーシュウィンの”I Got Rhythm”は以下略

ただしコード進行があまりにも独創的な場合は、著作権が発生するケースもあると聞いたことはあります。しかし「天国への階段」のあのクリシェの4小節のコード進行が「Taurus」の上で挙げた4小節のそれに酷似している、というだけなら、原告側が裁判に勝てる可能性は低いのではないかと個人的には思います。

YouTubeでの議論を読んでいると、この裁判については「コード進行に著作権はあるか」というテーマに焦点が当てられることが多いようですが、コード進行だけで判断するなら特殊なものではなく、何の問題もないはず。すると争点はコード進行に加え、アルペジオの順番とか全体的な「雰囲気」の酷似になってくると思うのですが、これは裁判で争いにくいでしょう。やはり原告側の勝機は少ないように見えます。

影響はあったんだろうと思う。でも盗用という言葉は適切なのか

そもそも「盗用かどうか」という聞き方に、少し無理があるような気がします。というのも1960〜70年当時のロックの世界では、今で言う「パクること」と「影響を受けて何かを作ること」の境界線が今よりもずっとグレーだったんじゃないか。勿論あからさまな、確信犯的なパクリでオリジナルに対してレスペクトも感じられないようなものは、現代と同じですぐにわかったとしても。

ツェッペリン大ファンの私が「天国への階段」と「Taurus」の関係をどう思うかというと、ジミー・ペイジとロバート・プラントは「Taurus」をかなり聴いたんだろうと推測します。最初の4小節以外にも、1:34〜と2:28〜の「ジャジャジャーン」というAのコードストロークの特徴的なリズムは、「天国への階段」のギターソロに入る前のブリッジ部分に相当似ているように感じます(D add9 susの「ジャジャジャーン」!)

レッド・ツェッペリン「天国への階段」をめぐる裁判 盗用という言葉は適切か

0:19〜のAmペンタっぽいフレーズもジミー・ペイジのソロと雰囲気が何か似ている。「雰囲気」やちょっとした細部を見ると、個人的には影響関係は確実にあったんじゃないかな、というのが正直な感想。ツェッペリンはカバー曲も多い。ブルースは勿論、”Dazed and Confused”はJake Holmesというアメリカのシンガーソングライターによる曲のリワークとしてクレジットされています。

恐らく「天国への階段」も「幻惑されて」のように”Inspired by…”というクレジットがあれば係争も起きなかったのかもしれませんが、そのクレジットがどうしても必要なほどの類似性や、オリジナルへの依存度があるかというと、そこまではないかな、というのが私の感想です。

しかし、なんともモヤモヤする感じの裁判です。著作権は守られなければならないし、盗用とかパクリといったことは擁護できないですが、どうもスッキリしない内容。最近では「カメラを止めるな!」という映画でも原作者に許諾のない脚本のアダプトが話題になりました。結局お金が絡むというこういう話になってしまうのかな。

「天国への階段」という曲の価値は私の中では何があっても変わらないし、「Taurus」という曲がなければこの曲が生まれなかったとするなら、それにも感謝したい。でもこの裁判は、何か違うな、と思います。ジミー・ペイジとロバート・プラント、ちょっと気の毒。

 

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