デンマーク出身で現在はオランダに活動拠点を置くギタリスト、イェンス・ラーセン氏。YouTubeに10分前後のレッスン動画を精力的にアップされていて、たまに見るのですが、最近ボイスリーディングの動画がありました。まずこの動画。ボイスリーディングの基本的な考え方、その拡張方法が説明されています。
あるコードからあるコードに移動する際、最短距離で滑らかに各声部を動かしていくことをボイスリーディングと言うのですが、様々なコード進行を練習しているうちにある程度の規則性があることがわかります。例えばIIm7としてのCm7コードの7度のBb音は、次にF7が来るとしたら3度であるAに降りる、といった具合。テンション入りの不完全ボイシングでやると面白い発見があるよ、というのが上の動画。
さてラーセン氏、上の動画の直後にジョン・スコフィールドのフレーズ分析動画を出されていました。パット・メセニーと共演した”I can see your home from here”というBbブルースでのフレーズを紹介しているのですが、これがためになる内容(4:45〜)。この2本の動画、氏の頭の中ではセットになっているのではと思いました。
上でも書いたように、Cm7の7度のBbから、普通はF7の3度であるAに移動するわけです。耳はそれを予感する。西洋音楽の歴史がそれを要求する。自然でなめらかなライン。でもジョンスコ先生、まさかの1オクターブ+増4度上のEへとジャンプ!ジャンプどころか、背負ったジェットエンジンが火を吹いて次の瞬間には空へ…みたいなレベルw
増4度というのは歌手にとって最も歌いにくい音程として有名らしいですが、それをさらに1オクターブ上へ!しかもF7でE音て何なんだ…学校ではドミナント上でそれ使ったら軽くビンタされる音じゃないのか…これはラーセン氏が言うようにブルーノートなのでしょう(Bb blues scaleで大きく考えているのかな。理屈はわからなくても、とにかくカッコいい)。
ジョン・スコフィールドのフレーズにはこういう「歌えない」もしくはとても歌いにくい、インターバルの大きいラインがたくさんあるのですが、なら彼のギターは歌っていないかというと、いやとんでもない、むしろ歌いまくりじゃないか、とみんな思うわけですよね。ここがジョン・スコフィールドの最大の謎であり、魅力の1つではないかとあらためて思いました。
以前、下の記事で「音楽は最終的には自然なものでなくてはならないんだ」というジョンスコ先生のお言葉をご紹介しました。普通のボイスリーディングを無視した大跳躍のあるラインは、ある意味で不自然極まりないのかもしれませんが、私達はあの大跳躍に手に汗握り、うおーっとなるわけですよね。
なめらかなボイスリーディングは「普通の音の流れ」としてごくあたりまえに聞こえてこないといけない(そして何年もやっていれば聞こえてくる)ものだとは思うのですが、もしIIm7の7度からV7の3度へ移動することが、自分にとって気持ち良いものではないとしたら、気持ち良いと思えるものをやればいい。たとえそれが声では歌いにくい、あるいは歌えないものであっても。ある意味で、歌から逃れる。
それでいてジョン・スコフィールドの演奏にはなんともいえない自然な流れがあります。ボイスリーディングの普通のルールが破られても、音楽の流れは破られない。ボイスリーディングが生み出す自然な美しさとは別の次元に、新しい美しさを彼は描く。それがジョンスコの魅力。それをものすごい高みにまで持っていける。スコフィールド氏、唯一無二だな、と思います。
そういうことを考えさせてくれたイェンス・ラーセン氏に感謝。チャンネル登録されていない方は、是非。