ソロギターによるセロニアス・モンク全曲演奏作品“WORK”で話題になっているマイルス・オカザキ氏。marlbank.netというジャズブログでミニインタビューに応じています。
Q: これほど壮大な仕事をすることになったきっかけは?
Miles Okazaki: ライナーノーツで詳しく書いたんだが、手短に言うと一定期間、集中して研究するためだ。ソニー・ロリンズのウィリアムズバーグ橋風に(訳注:ロリンズは一時演奏活動を中断し、橋の下で1年ほど孤独な秘密練習をしていた。その場所がニューヨークのウィリアムズバーグ橋で、復帰後の作品は”Bridge”というタイトルになった)。スティーヴ・コールマンも時々そういうことをやっている。
Q: ハーモニーに関するこれまでの深い研究は今回の演奏にどのように反映されたのでしょう?
M.O. ハーモニーの研究はこのプロジェクトでは多く役立ってはいないんだ、ハーモニーは素材自体によって提供されている。僕による曲の解釈で大事なところはハーモニーではなく、リズムに関するものだ。
Q: なぜモンクはあなたにとってそれほど重要なのですか?
M.O. 彼の音楽は、僕の音楽生活の初期から心に響くものがあったんだ。深いところまで論理的で、ソウルフルで、リズミックで、内的に一貫性のある世界だ。その世界は、中に入っていって、住むことができる。
Q: 今回使ったギターと弦、アンプなどは?
M.O. 1978年製のGibson ES 175 チャーリー・クリスチャン・アーチトップ・ギターと、トマスティックの14からのフラットワウンド、フェンダー・ツインリバーブだよ。ステレオマイクを1組使った、1つはアンプに、1つはギターボディーに向けて。20年間このセットアップなんだ。フラットワウンドを使うのは、ギターのすぐそばにマイクを立てるから。その距離でラウンドワウンドだとノイジーすぎると思って。
Q: このアルバムの制作過程で最も困難だったことは?
M.O. 難しくはなかったよ、ただ長い時間がかかった。長い時間にわたって集中を維持することが大事なんだと思う。でも僕の主な強みがそれなんだ、ゆっくり続けて、最終的にやりとげるのさ。
“WORK”のライナーノーツで、マイルス・オカザキは次のようにも語っています。
少年時代はモンクのアルバムから12曲ほど弾いていたが、当時は、曲の最も基本的な形式以上のことを立派にやるだけの言語を持っていなかった。20代では、語彙は増えたが、テクニックがまだ追いついていなかった。30代になると僕のチョップはより強固になったが、このプロジェクトをただの演奏や模倣以上のものにするためのヴィジョンを持てていなかった。ようやくいま僕はこれをやることにしたが、たぶん後になれば、これらの素材をきちんと扱うための十分な経験と成熟を得るまで、もっと待てば良かったと感じるかもしれない。とにかく、時は熟した、そして、ボツになったモンクの曲のタイトルを借りるなら、それが「今の僕の気持ち(that’s the way I feel now.)」だ。
マイルス・オカザキ氏には”Fundamentals of Guitar”という著書があり、これがまた精緻かつ精密な内容で、一生使えそうなものなのですが、何でも粘り強く時間をかけて取り組んできたギタリストなのだろうとあらためて思わされました。ゆっくり続けて、最終的にやりとげる(“going slowly and eventually getting there.”)。マイルス・オカザキ、それはジャズギター界のサグラダ・ファミリアなのか…
面白いことに取り組んでいるギタリストだな、という印象はあったのですが、最近になって彼が思い描いている音楽の姿が前よりもクリアに感じられるようになりました。精密なリズムの追求と、熱いパッションの融合。魅力的なギタリストです。最新作”WORK”は手に汗握る本当にいい録音なので、興味を持たれた方は是非。この美意識には、惚れます。入手方法などは下の記事をご参考に。
マイルス・オカザキ氏の著書です。最初は何を考えているのかいまひとつわからない感じだったのですが、最近の仕事にすべて結実してきた感があり、楽しく読み返しています。
オカザキ氏は今回の録音にあたって基本的にはモンクの演奏だけを頼りにしたそうですが、一部の曲の解釈についてはギタリスト、スティーヴ・カーディナスによるモンク譜を参考にしたそうです。これはすごくいい本で、モンク好きにはオススメです。