ジャズを通じて英語を学ぶシリーズの第2回は超定番スタンダード曲”All The Things You Are”の歌詞を題材にしたいと思います。作曲者はジェローム・カーンで、曲自体の著作権は消滅していますが、オスカー・ハマーステイン2世による歌詞はまだ著作権がありASCAPが管理しています。
ところで本題に入る前に…皆さんはこの歌詞の内容をご存知でしょうか。よろしければポチッとお答えいただけると幸いです。
Note: There is a poll embedded within this post, please visit the site to participate in this post's poll.All The Things You Are (Oscar Hammerstein II)
まずざっと歌詞を眺めてみたいと思います。この記事は英語の勉強が目的なので、翻訳例は直訳的なものにしてあります。
You are the promised kiss of springtime
あなたは、春の約束されたキス
That makes the lonely winter seem long
孤独な冬を長く思わせるような(キス)
You are the breathless hush of evening
あなたは、夕べの息を呑むような静けさ
That trembles on the brink of a lovely song
素敵な歌の縁で震えているような(静けさ)
You are the angel glow that lights a star
あなたは天使の輝き、星を光らせる(輝き)
The dearest things I know are what you are
私が知る最も愛おしいものたち、それがいまのあなた
Some day my happy arms will hold you
いつの日が、私の幸福な腕があなたを抱くでしょう
And some day I’ll know that moment divine
そしていつの日か、私はあの神聖な瞬間を知るでしょう
When all the things you are, are mine
あなたがそうである全てが、私のものになる時に
この歌詞における「詩的な表現」でいちばん凝っているのは、”You are the breathless hush of evening that trembles on the brink of a lovely song.”という部分でしょう。この”on the brink of 名詞”という表現は、何かの端っこ、何かの瀬戸際、のような意味で使われる慣用句です。
“on the brink of a lovely song”だと、その素敵な歌がいままさにはじまろうとする瞬間、という感じでしょう。今はまだその愛の歌は、はじまっていない。でもそれがはじまる予感がある。その緊張状態の中で、息ができないような静けさがある。それが今のあなた。ここは美しいフレーズだと思います。
関係代名詞の”that”が特徴的な歌詞
文法面を見ると、この”All The Things You Are”は関係代名詞の主格として使われる”that”を学ぶのにこれ以上の好例はない歌詞でしょう。関係代名詞とかやめて!文法とかイヤ!という方もいると思います。英語が苦手な方は、この関係代名詞というやつで挫折した方が多いと思いますが(日本語にはない機能なので難しくて当然)、丁寧に考えればそんなに難しくありません。
この歌詞には、次のような部分があります。それぞれ「あなたは〜です」と表現しています。文法的にはSVC(主語・動詞・補語)。”This is a pen”(笑)と同じ構造。ここは基礎文法なのでわからない方もこういう語順であると丸覚えするとして…
You are the promised kiss of springtime(あなたは春の約束されたキス)
You are the breathless hush of evening(あなたは宵の息を呑むような静けさ)
You are the angel glow(あなたは天使の輝き)
これらのシンプルな文に対して、さらに追加の説明が入るんですね。そのために使われるのが”that”という関係代名詞(主格)です。
You are the promised kiss of springtime(あなたは春の約束されたキス)
↓
(どんなキスかをもっと説明したい)
↓
…that makes the lonely winter seem long(孤独な冬を長く思わせるキス)
こんなふうに”that”は直前の名詞を受けて、さらに動詞を続けられます。そうすることで、単に「あなたは〜です」と言うかわりに、「あなたは〜であるような(〜をするような)〜です」と、最初の文に追加説明を加えられます。この歌詞にはこの”that”が3回も登場しています。
ちなみに曲名の”All the things you are”も、”All the things that you are”というふうに、関係代名詞”that”が隠れている表現とも言えます。この場合は「目的格」のthatで、you areに続いています。
All the things(全てのものごと)
↓
(どんなものごとかというと…)
↓
…that you are(あなたがそうであるようなものごと)
という思考の流れ。なお目的格のthatは省略できるので”All the things you are”と言えることになります。
ハーモニー構造との驚くべき関係
英語を学ぶことが目的の記事なので、メロディやコード進行の話には踏み込みませんが、この曲の「転調の多さ」は注目に値すると思います。Abではじまる場合、Cに、Ebに、Gに、Eに、またAbに…と5回転調するのかな。
この「転調」は、どう考えても歌詞と深い関係があると思うんですね。
この歌詞に登場する「あなた」は、1つの決まった何かではない。いろいろなthings(ものごと)である。あなたは、キスであり、静けさであり、光である。その複数性みたいなものが、転調で表現されているのではないかと個人的には感じます(曲と歌詞のどちらが先にあったのか、とても気になる…)。
やっぱり歌詞を理解すると、メロディやハーモニーの理解もぐっと深くなるのではないかと思います。
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