キリン「生茶」のCMで、あるいは映画「バードマン」のサウンドトラックでドラムを叩いたことで日本でも一躍知名度を高めたメキシコ出身のスーパードラマー、アントニオ・サンチェス。下のインタビューで、彼はパット・メセニーから学んだことについて語っています。その一部を抄訳でご紹介。
僕たちがやってきたことを思い返すと、本当にすごい経験だったよ、パットは5人のお客さんの前でも、2,000人のお客さんの前でも同じ強度(intensity)で演奏するんだ。(…)
僕が思うに、ジャズミュージシャンは少し怠惰になることがあるんだ。何かを提供する時、人はものすごいミュージシャンでなくてはならない、入念に準備が出来ていないといけない。でも思うんだけど、それは音楽だけに関するものではない。「お客さんを楽しませる」というタスクもあるんだよ。僕はそう思う…
自分が頑張りたいと思うギグは、会場の大きさとか、PAの大きさとか、ステージでのライトの数とか関係がないんだ。僕目当てならお客さんが10人だけのコーヒーショップでのイベントだっていい。
でも人々の集中力が持続する時間は減ってきていると思う。ソーシャルメディアが大きくなりはじめてから、人々はしょっちゅうスマホをいじりたい欲求に駆られているし、集中力を失ってしまう。
パットから学んだもう一つのことは、彼のリリシズム(叙情性)だ。それがあるから聴衆は彼の音楽から離れないんだ、彼は曲に対してまっすぐな線を弾く、あるいは聴衆に対して、離れられないような何かを与えるんだ。
それはすごく複雑なものだったり、洗練されたものだったりするんだけど、いつもそういうグルーヴやメロディーのようなものがあって、特にメロディーだね、聴衆はそれから離れられなくなって、僕たちが3時間演奏しても聴衆はずっと聴いてくれるんだよ…
聴衆が5人でも2,000人でも同じ強度で演奏する、というのは本当にパット・メセニーらしいと思います。でも、私は同じようなアティテュードで演奏する日本のジャズミュージシャンもたくさん知っています。客が私を含めて2人の時でも、20人の時でも、同じ強度で演奏してくださる方々がたくさんいます。これは日本のジャズミュージシャンも決して負けていないと思います。
演奏中にスマホをポチポチ、というのはステージからもよく見えるのでしょう。現代で最も手強い敵であるスマホに対して我々はどのように戦えばいいのか… その答えはパット・メセニーにある、というわけですね。
メセニーのステージは、いつどんな編成で観ても、本当に飽きないし、エンターテイニングです。クリスチャン・マクブライドとのデュオでは「爪が伸びてるからちょっと待ってね」と演奏をイントロで中断し爪を磨き始めたことがありました。コメディみたいでウケてました。あれはもしかしたら、観客との距離を縮めるための特殊な努力の1つだったのかもしれないな、とサンチェスのインタビューを見て思いました。
「彼は曲に対してまっすぐな線を弾く、あるいは聴衆に対して、離れられないような何かを与える」というのは、どういうことでしょう。サンチェスのこの言葉には、いい音楽へのヒントがあるような気がしました。”He draws a straight line to a song.” 曲に対して引かれた、真っ直ぐな1本の線。ストーリー、物語に関係があることかな。この言葉は、黄金です。