音楽系YouTube動画でよく目にするタイプのタイトルがあります。例えば、こんな感じです(実際に存在する英語動画のタイトルを訳出してみました)。
- ギターソロを弾く10の方法
- ギタリストなら誰でも知っておくべき10の事柄
- ギタリストなら誰でも知らなくてはならない曲トップ10
- ギタリストなら誰でも知っておくべき10の簡単なギターリック
- あなたが所有すべき10のギターアクセサリー
- ギター始めるの? 始める前に知っておくべき10の事柄
- アコギプレイヤーなら誰でも知っておくべき5つの事柄
- ギタリストには決して言ってはいけない5つのこと
- ビギナーギタリストは誰もが知っておくべきことトップ5
- アコギを買う前に知っておくべきこと8つ
いくつか共通点があります。
- 「n個の」というふうに、項目が限定されている。大体多くても10で、たまに3つの、5つの…というバリエーションがある
- 多くの場合「すべき・ねばならない・してはいけない」といった「義務」や「禁止」に関する単語が併用されている(should, must, never等)
これは何故だろう。たぶん「n個」と限定することによって、視聴者を安心させる効果があるのではないか、と思いました。やるべきことは、無数にあるわけではない。有限だ。最大でも10個でいい。100個だと、なんか無理そうな感じがするだろう? でも安心してほしい。10個だ。10個以上はない。10個だけ消化しておけば、君はレベルアップするんだ。そんなふうに安心させる。あと短時間で見られる印象を与えられる。
「すべき・ねばならない・してはいけない」系の文言はどうか。これは、ちょっと不安を煽っているのかもしれない。まずい、俺はそれを知らない。それは常識だったのか…その10個のうち知らないものがあるとしたら。俺は不安だ。知りたい。やってはいけないこともあるのか。どうしよう。もしかしたら俺にも何らかの悪癖があるのかもしれない…等々。
私もこのブログでこういう感じのタイトルを記事につけたことが、何度かあります。なんとなくキャッチーな感じがしたからです。しかし最近のYouTubeでこういう感じのタイトルを見かけると、ちょっとお腹いっぱいという気持ちになります。なんかもう飽きた。中にはすごく参考になる動画も多いし、エンターテイメントとして楽しいものもあるのですが、大体退屈な内容であることが多くなった。
ところで最近これのバリエーションで、下のようなものが増えてきたような気がしています。
- 私がスムーズジャズを嫌う10の理由
- 最も嫌われている10のバンド
- 最悪なギターソロトップ10
最近そういうのを観ていたら、突然嫌な気持ちになりました。観ていて辛くなったんですよ。これはダメだ、あれはダメだ、という批判だけで動画を制作し、しかも収益化までしている。
好きでないものを褒める必要はないし、嫌いなものは嫌いでいいんですが、それでお金を稼ぐのは論外だと思うし、それに何より、こういう負のエネルギーからは結局のところ、人は離れていく。
こういう動画を出す人のチャンネル登録数を見ると、やはり伸びていなかったりします。ただ、こういう「嫌い」系の動画はそれなりに需要があるらしく、数百万、数千万回も視聴されている動画もあります。まあ「ローガン・ポールが嫌われる10の理由」みたいな動画があったら、私も観てしまうかもしれません。
負のエネルギーが表現にとって必要なことはあると思います。小説とか映画は、その結果感動的な作品になることは珍しくないと思います。社会や権力、エスタブリッシュメントに対する怒り、とか。
でも音楽はどうなのか。負のエネルギーを糧に音楽する人っているんだろうか。あ、フォークやロックにはそういうところがあったかもしれません。あとはブルースもそうか… でも、私はそういうのが何か苦手です。怒りながら、泣きながらギターを弾くことはできません。そういう音楽も、あまり耳にしたくない。
やっぱり愛です。出発点が愛でない表現は、苦手になりました。