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楽譜がまったく読めない人の共通点

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過去に「楽譜がまったく読めない」と主張する方に何人かお会いしたことがあります。読めるようになりたくて楽典を買って勉強したりしたものの、結局読めなかったそうです。

一般に「楽譜を読むスキル」はそれほど難しいものとは思われていないようで(※読んだものをすぐ楽器で再現する初見読譜力は別の話)、譜面が読めない人、譜面というシステムがわからないという人はバカにされてしまう傾向があります。

しかし楽譜が読めない、読めるようにならなかった、という人は、話をしていて共通点がありました(といっても数人なので、統計的に何か言えるわけではありません)。まず、知性に何か特別な問題があるように思えた人はいませんでした。あと、音名は把握できるけれど、リズムの表記システムがわからない、という人が多かった。そしてもう1つは、英語のような外国語も苦手だということでした。

例えば英語で「それ好きだ」を”I like it.”と言うとして、何故その語順になるのかが、わからないと言う。「なぜ”I”を入れないといけないのか。”it like.”じゃダメなのか」というようなことを彼等は言います。

同様に、4分音符は8分音符2個分だよ、と言うと、彼等は「何でそうなるの?」という疑問を持つらしい。つまり「それは何故とかではなく、そういう約束でやるのだ」という概念がなかなか飲み込めないらしい。

「私はそれが好きだ」を”it like”のような語順で表現する言語は、英語でなければ存在するでしょう(というか日本語もそう)。ただ英語ではその語順にはならない。SVOという語順になる。それは単なる約束事であって、「何故」を問うものではない(何故そうなっているかを研究する学問はあるとしても)。

ベートーヴェンの「運命」は、8分音符の休符ではじまり、8分音符のG音が3つ続き、2分音符のEbが1つ続く。というような感じで、楽譜が読めないと悩んでいる人に、むかし説明していた時、

「それはなんで8分音符なの。4分音符ではいけないの?」

と聞かれたことがあります。なるほどなぁ、と思いました。私はベートーヴェンの第5の譜面を見たことがある。その人は、ない。4分音符ではじめても、残りの音価を倍にすれば「間違い」にはならない。

「4分音符で書いても理論的に間違いにはならないけど、今は8分音符ではじめることにして考えましょうか」

という言うと、その人は「えっ…わからない。なんで。そもそもどちらでもいいっていうのがわからない。どちらでもいいなら、なぜどちらかに決められるのか。あとこの曲は4分の2拍子って言うけど、4拍子で考えたらダメなのか?」という感じで、話が先に進まない。

つまり「譜面がまったく読めない」と思っている人は、少なくとも私がお会いした中では「こういうルールではじめることにしましょうか」という前提条件をうまく理解(あるいは「承諾」かな)できず、それが壁になってしまい、譜面を諦めた、というケースが多かったように思います。

それであらためて書くと、だからといってこうした人達の知性が劣っているわけではまったくなく、むしろ あらゆるシステムの根拠はいかなるかたちでも保証されないという超絶ビッグな哲学的命題 を体感している人々であり、勿論すごく頭の回転が速かったり、楽譜や外国語以外の分野では相当優秀な人だったりもします。

ではどうすれば譜面が読めるようになるか

原因はどうあれ、楽譜のルールを自分なりに勉強してみたものの、なかなか読めるようにならなかった、でも読めるようになりたい、という場合、どんな方法があるんだろう。思うのですが、てっとり早い方法は自分の知っている曲の楽譜を何でも良いから買ってきて、聴きながらひたすら譜面を目で追ってみることではないかと思います。

譜割りが複雑でない、簡単なピアノ曲などでも良いと思います。譜面を見ながら何度も聴いていると、なるほどこの音を8分音符で書けば、この長さの音はこの白い穴のあいたおたまじゃくし記号になるんだな、というラベリングができるようになると思います。これは、先述したリズムの話。

音名が読めない、という人にはあまり会ったことがないです。勿論、ト音記号譜の高音域になるとすぐに何の音か判別付かないとか、ヘ音記号の音がすぐ出てこない等はあっても、原理はわかっている人が多い。これはトレーニングで解決できる問題。

ただ「ト音記号の場合、中央の線の音は、Bです」という説明や、「ヘ音記号の点々のあいだの音は、Fです」という説明に、「えっなんでそうなるの!?」という疑問を持つ人は、苦戦してしまう。

これらの症状が組み合わさっている人もいると思います。そもそもなぜそんな約束事があるのか、わからない。その約束事はなんとなくわかったが、棒の数が増えてくると何の音かわからなくなる。いや待て何故これは8分音符なんだ、4分音符で書いたっていいじゃないか。と、頭の中でこんがらかってしまうらしい。

でも人間の脳のパターン認識能力にはものすごいものがあり、何度も譜面を見ながら知っているメロディーを聴けば読めるようになってくると思います。いずれ。”You like it?”は「それ好き?」という関係が出来上がってくる。そう聞こえてきたら、1度そういうものとして、受け入れる。

ある意味すごく真面目で頭の良すぎる人ほど譜面が読めなかったりするような気がしないでもありません。割合的には少数派だと思うし、もしかすると天才型なんじゃないかとわりと真面目に思います。天才っていうのは何でもわかる人ということでなく、何かが決定的にわからないというところからも発生するような気がします。


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