最近いつものギター練習メニューに取り組んでいて少し鬱になっていました。ステラとかオールザシングスとかジャイアントステップスとかインナーアージとかステイブルメイツとか、色々あるじゃないですか。どれも簡単ではありません。でも正直に言うと、飽きる んです。
何でいつまでもこれやってるんだろう、ってふと思うんです。しかも、もっともっと地道にいろんな練習しないと自分のステイブルメイツは弾けないだろう、とか思って、打ちのめされるんです。やることは山ほどあるんです。ボイスリーディングとかリズムとかシェイプとか。死ぬほどあるんです。
そんな時、メアリー・ハルヴォーソン最新作「Code Girl(暗号少女)」は昨日リリース、みたいなメッセージをGoogleアプリで見て、amazon music unlimitedで聴いてみたら、それら全ての鬱々悶々とした気分がきれいさっぱり吹き飛ばされました。
これだろ。音楽っていうのはこういうものだろ。自分にとってのこういう音楽を目指さなければ生きてても意味ないだろ! と思いました。新譜でこんなに感動したのは何年ぶりのことかわかりません。
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いわゆるジャズ・ギターを練習して、演奏している時に、私のような一般人は「予測可能な表現・所属している共同体によって受容されうるギリギリの表現」の可能性を無意識に探っています。それはそれで価値のあることであり、難しいことであり、人生を賭ける価値のあることだとも思っています。
でもこのメアリー・ハルヴォーソンという人は、それを完全に捨て去るところが出発点。予測できないことを、やってみる。立派な表現にはならないかもしれない。でもいいじゃないか。そういう態度でやっているんですね。それが普段の自分とあまり違うので、感動してしまう。
私のような一般人の練習が”Perfection”(完璧さ)を追求しているなら、彼女の練習はきっと、”Unpredictable”(予測不能なもの)の実現のためになされている。同じような練習をしていても、目的が全く違う。どっちが楽しいんだろう。悔しいけど後者だな…。
普通に考えると「売れる」音楽では全くないと思うのですが、極東在住の中年男性である私のような人がお金を払って聴いているので、もしかしたら売れたりもするのかもしれない。個人的に、売れてほしい。これ、すごい音楽です。新ウィーン楽派にジャズを掛け算して、ハードロックで割ってみる。それがメアリーであり、このアルバム。
この時代にこんな音楽がまだ存在しうる、現れうる というところに感動します。世の中まだ捨てたもんじゃないですね。2枚組みのこういうCDが出るんだもの。当分、いつものギター練習に疲れた、という時はこれを聴くことにします。これを聴いているあいだは、何も悩まないな。こんなに感動したのはベン・モンダーの”Hydra”以来で、興奮しています。
ハルヴォーソン氏の曲にはいつも詩的なタイトルが付いていて面白いのですが、今回は歌詞のある曲が多いです。その暗号(code)のような詞がまず生まれ、その後に曲が発生したそうです。
- My Mind I Find in Time – 時の中に見出す私の心
- Possibility of Lightning – 稲光の可能性
- Storm Cloud – 嵐雲
- Pretty Mountain – かわいい山
- Off the Record – オフレコ(記録することなく)
- In the Second Before – 前の秒で
- Accurate Hit – 正確なヒット
- The Beast – 獣
- The Unexpected Natural Phenomenon – 予期せぬ自然現象
- Thunderhead – 雷頭
- And – そして
- Armory Beams – 兵器庫の光線
- Deepest Similar – 最深の類似
- Drop the Needle – 針を落とす
曲のタイトルだけでもう只者ではないw いやー、もう感動しました。いまいちばん面白いギタリストじゃないかな。また来日してくれないかな…。
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