マイク・モレノの2009年の演奏です。曲は、先日この記事で紹介したものです。
さてこの演奏ですが、私の耳には特別に複雑なことをやっているようには聞こえず、コード進行もきちんと聞こえてきます。勿論、すごくいい。
でもYouTubeのコメント欄にはこんな声が寄せられています。
I dislike this kind of playing– Too “out there”..I’ve been playing jazz for 30 yrs (alto)..I’m a bopper and play intricate lines, but I make sure even non-jazz listeners “hear” the changes in my lines– Bird, Stitt, Brownie, Fats, Dex, Gigi Gryce, Tal Farlow, Jackie McLean.. these guys were monsters, but they didn’t stress you out with such “cerebral” playing… Theoretically, I’m sure Mike knows what he’s doing, but what’s the point if no one else does? Grates on my nerves to hear this!!
私はこの種の演奏は嫌いだーーあまりに「これはどうだ」という感じで…私は30年以上ジャズを演奏している(アルトサックス)…私はバッパーで、複雑なラインを吹くんだが、普段ジャズを聴かないようなリスナーでさえチェンジが「聴き取れる」ようなラインを心掛けているよーーバード、スティット、クリフォード・ブラウン、ファッツ・ナヴァーロ、デクスター・ゴードン、ジジ・グライス、タル・フォーロウ、ジャッキー・マクリーン…彼等はモンスターだ、でも彼等はこんな「頭でっかち」の演奏で訴えかけようとはしなかった…理論的に、マイクは何をやっているか理解しているのだろうが、もし彼以外の誰も理解していなかったらそれに何の意味があるだろう? 聴いていると苛々してくるよ!
このコメントは「自分に理解できないものを前にした時にある種の人々が見せる典型的な反応」であるように思えました。ここにはいつも共通の法則があります。まず、自分が音楽で生計を立てているプロフェッショナル・ミュージシャンであることを強調する。そして「こっちは昨日今日のガキじゃねぇんだ」という感じで、キャリアの長さを強調する。さらに、歴史上の権威を引き合いに出して自分自身の立ち位置を正当化する(ハロー効果)。
こういうタイプの人は洋の東西を問わず存在するらしく、日本でもよく見かけます。私は思うのですが、嫌いなら嫌いと言えばいいだけで、「俺は30年のキャリアがあってジャッキーは…」とか言う必要ないと思うんですよね(笑)。それはやはり、自分のほうが正しい、という偏狭な、心の狭い人間の立ち位置であり、人々の関心を自分自身に向けてほしいと願っている姑息な主張であるように聞こえます。
この人の意見に対して、俺もそう思う、という賛同もあれば、いやそんなことないよ、という反論、様々あります。もう1つ、興味深く思えたやり取りを紹介します。最初の主張は、同じ方によるものです。
「こんな演奏をしていたら大部分の観客は退屈して、帰ってしまうだろう。君はプレイヤーか? 私はプレイヤーだ。私は週に三晩、プロとしてジャズを演奏しているんだ…もし私があんなふうに演奏したら、チップはもらえないし、クビになるかもしれないよ!」
「あんたのギグ、間違っているかもしれないね」
恐らくこの「週に三晩演奏している、30年のキャリアがあるプロ」の方は、自分の聴衆のことをよくわかっているのでしょう。固定ファンもかなりいるのかもしれません。聴衆が自分の演奏に何を期待しているのか十分にわかっていて、それに応える努力をしている。プロとして立派な仕事をしているのでしょう。
ただ彼は、その外側に別の世界があることを知らない。というか、それを認めたくない。いや、そもそもこういう人にとって、自分の想像できる世界とその外側の世界とのあいだに 超えられない壁 というやつがあって、本当に何ひとつ悪意もなくこういうことを言ってしまうのだと思います。
たまに会社などでこういう人と遭遇することがあります。すると気付くのは、これは性格的な問題というよりも、精神疾患に関連するテーマかもしれないということです。具体的には、アスペルガー症候群とされる人々が、自分の想像力の外側にあるものを否定する際に上の人のような言説を構成する場面によく出くわします。この場合、話し合おう、という努力が無駄になる場合があるので、見極めが必要だったりもします。
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