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良い音で良いリズムで弾くという、非効率的な行為

世界各地の空港で私達の預け入れ荷物がどのように扱われているかがわかるコンピレーション動画です。これを見て、なんてひどいことをするんだ、このキャリアは、この作業員はけしからん、とプンスカするのは、当然なのですが、考えてみれば彼等がとりわけ反社会的な怠け者とは言えないでしょう。

何故か。彼等の給料と待遇が不当に低いとしたら。自分たちの仕事が誰にも感謝されていないとしたら。自分たちの作業品質が定期的にチェックされ、結果が給与に反映するような人事評価システムが存在していないとしたら。その上、誰も見ていないとしたら。

すると自然とこういう身体の動きになるはずです。10個や20個ではなく、1日に数百個。丁寧に心をこめて、中に卵が入っているかのように注意深く荷物をベルトコンベアにそっと乗せるとしたら、相当な筋力が要求されます。大変でしょう。というか、腕が死ぬ。見ていると、彼等は乱暴に仕事をしているというより、なるべく身体に負担がかからない動きをしているような印象を受けます(お金盗むのは論外だけど…)。

羽田や成田のカウンターのお姉さんがどんなに親切に笑顔でギターを手で預かってくれても、そのお姉さんがLAXやシュレメチェヴォやドゴールで荷降ろししてくれるわけではありません。現地ではこういう「自分の身体と生活を守る人」たちが待ち構えています。すると大切な楽器はやはり、個人的には機内持ち込み以外の選択肢はありえません。

もしくはこんな扱いをされても構わない、5万円以下のソリッドギターを持って行く。ホロウボディのギターは預けられません。

この動画を見ていて、ギターを練習している私達の身体の動きというのは本質的に非効率的なんだな、と思いました。良い音を出すために指がきっちり弦を押さえるように力加減をコントロールし、音量をコントロールし、ビートに対して思い通りのポケットに音を落としこむ。左手も右手も、勿論最終的には脱力しないといけないけれど、筋肉を駆使して動きをコントロールしています。

毎日そういう練習をしている人間にとって、スーツケースをぶん投げるこの動画はカッとしてしまう内容ですが、音楽表現(音楽以外もそうですが)は効率とは無縁だな、と思います。少ない力でやらないといけないとしても、そのためには相当大きな、基礎的な体力が要る。とにかく量を弾いて、体力を付ける必要があるのではないでしょうか。


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