マイク・モレノ氏がスタンダード”There will never be another you”(通称アナザー・ユー)について語っています。最近紹介した“All The Things You Are”や“Stella By Starlight”同様、この人気曲の元々の姿をリサーチ。そんなスタンダード警察・モレノ刑事の捜査記録を抄訳でご紹介。
まず譜面5枚と映画のポスターが1枚あります。画像の上にカーソルを持ってくると右に矢印が出て画面をめくれます(スマホの方はタップ)。
あといくつかこういう投稿をすることにした。最近古い映画をたくさん観たい欲求があって、それと関係している。というわけで3番目に選んだ曲は、ジョーン・メリルとサミー・ケイ・オーケストラをフィーチャーした1942年の映画「アイスランド」から、「ゼア・ウィル・ネバー・ビー・アナザー・ユー」だ。この曲は世界中のセッションやレッスンでたくさん耳にしてきた。特にアジア。これはみんな「知っている」曲のひとつだったから、最終的に僕は嫌いになった。だからもう一度この曲に美しさを見い出すため、そしてこれがどのようにして今日のスタンダードになったのかを理解するために、本当のはじまりを探求してみる。
それぞれのセクションの2つめの8小節区間で、しばしばおかしなことが起こっている。それに各セクションの3つめの小節も興味深い。あのハーフ・ディミニッシュ・コードは一体どこからいきなり現れたんだろう? デクスター・ゴードンかな? この曲もまた愛がテーマであり、「ステラ」同様、映画のクライマックス・シーンで大きく扱われる。
主人公であるアメリカの海兵が、アイスランドで見つけた「将来の妻」と一緒にいる時、ニューヨークに置き去りにしてきた元カノと鉢合わせる。彼女は町のダンスホールで歌っていて、客席にその海兵と婚約者を見かけると直接彼に向けてこれを歌い出すんだ。かなりいいシーンだよ。映画中、歌詞付きでこの曲を聴ける唯一のシーンでもある。キーはBメジャーだ。映画全体を通じては、EとEb。
1950年までに、すぐにウッディ・ハーマンのようなバンドや、トミー・タッカー、ソニー・スティットら多くの人々によって録音されている。でもこれらはオリジナルとあまり違わないから選ばなかった。54年のレスター・ヤングとオスカー・ピーターソンが使ったターンアラウンドはソニー・スティットが作ったものだと思うけれど。
手始めにライオネル・ハンプトンを聴いてみよう。1950年の録音だけど、クレイジなバージョンだよ! 下降する代理コードが山ほどある、オルガンの狂気だ! Ebメジャー。全く違う、シリアスなヴァイヴだ。
次は1954年のヤングとピーターソン。Ebメジャー。54年のチェット・ベイカーも調べた、FとEbだ。1956年のナット・キング・コールの有名なレコーディングには当時はまだなかったバースが追加されている! これは何処から来たのかわからない、映画の中にはない。Dbメジャー。
そして勿論フランク・シナトラが1961年にいろんな有名曲と一緒に、アクセル・ストルダールと録音している。これは美しいバージョンで、ジョー・ヘンダーソンがそこから「リコーダ・ミー」を着想したように聞こえる。
これが歌詞付きの「アナザー・ユー」の初出。キーはB、確かに3小節目は普通のマイナーセブンスに聞こえます。そしてちょっとだけ元恋人へのあてつけっぽい感じで歌われていたとは…
モレノ刑事が「クレイジだー」と読んだライオネル・ハンプトンの1950年の録音はこちら。これはすごいw III7-bIII7-II7-bII7という循環のバリエーション。2段目の後半はmMaj7か… リハモもすごいけど途中のオルガン、それやりすぎだろ、という感じです。何の曲だよw
1954年、レスとピーターソン。こうなると本当になんで3小節目はDm7(b5)になったんだろう、という疑問が湧きます。これは資料を改ざんした奴を国会に呼ばないといけないようだな…
同年のチェット・ベイカーのバージョン。アルバム”Sings”で多くのスタンダードを覚えた方は多いのではないでしょうか。
出自不明のバースがあるナット・キング・コールのバージョン。「一緒に踊るのはこれが最後ね…」と歌っています。ボーカルの方は試してみたくなるのでは。
1961年のフランク・シナトラのバージョンがこちら。
マイナー・コードに解決しているからといって必ずマイナー・セブン・フラット・ファイブ(ハーフ・ディミニッシュ)を使わないといけないわけではないし、オリジナルがそうなっているとも限らない好例ですね。あのDm7(b5)は誰かがオリジナルに対してツイストを加える感じで発生したものだったかもしれません。面白いなぁ。
マイク・モレノ氏がオール・ザ・シングス…やステラ、アナザー・ユーにはもううんざりだと言っていた、というのは何年か前にもどこかで目にしたような気がします。恐らくモレノ氏はそれらの曲自体が嫌いなのではなく、リアルブックや黒本に書かれてある最大公約数的な(あるいは何の理由もなく「標準」とされてしまった)ハーモニーから1歩も出ようとせず、鵜呑みにするような演奏が好きでないのでしょう。
正義と信念の人・モレノ刑事の捜査は続くーー
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