メアリー・ハルヴォーソンが下の5分弱の動画で、自身の作曲観、具体的な取り組み方を紹介しています。これがとても面白い内容なので、概要を抄訳してみます。
私の作曲法はとても直観的なものです。作曲しようと椅子に座る時、全体的な構造のことは考えていません。ただギターを弾いて、最初のアイデアを得る努力をします。それはシンプルなラインかもしれないし、1つのコードかもしれません。それを種(たね)として使って作曲をはじめます。この初期アイデアを得るところが私にとっていちばん難しいところです。5分間かかる時もあるし、3日かかる時もあります。今日はインスピレーションがないなと感じたら、翌日やったりします。
最初のアイデアを得られたら作曲を開始して、後でコンピューターに入力します。こうすることで様々な声部、異なる楽器を聴くことができるので助かります。
そこからはかなり直観的に行きます。初期アイデア、何かに姿を変えていく形態(morphs)が得られたら、連想を巡らせて行きます。考えすぎないようにします。作曲する時は考えすぎないのが大事です。考えすぎると「これはあまりにもあの人っぽいかな」とか、このアイデアは単純すぎはしないだろうか、バカみたいじゃないだろうか、という邪推がはじまります。こういうことを考えはじめると、フローの中に入っていくのが難しくなります。
最初に思いつくアイデアがベストだと私はよく思います。シンプルなアイデアもグレートです。とにかく考えるのをやめて始めてみる、終わってから評価すればいいし、改造もできます。
何年かかけて、作曲したものは捨ててはいけないことを知りました。これはひどい、と思ってゴミ箱直行になる曲があるのですが、数年前、やはり書いた曲がやはり気に入らなくて、捨てた曲があります。捨てたつもりだったのですが、2年後、パソコンのとあるフォルダーにそれが残っているのを見つけました。その曲は本当に気に入りました。だからすぐに気に入らなくても放置したほうがいいです、後で気が変わって使うかもしれないし、部分的に他の作品の素材にすることもできます。
作曲したもののバリエーションをたくさん作るのも良いことです。異なる様々な方向をどれだけ探検できるか。友達のすごい作曲家が言っていたのですが、その人はあるセクションの作曲が終わったら、4倍の長さに引き伸ばしたバリエーションを作れるかどうか挑戦してみるそうです。
特定の楽器や、特定のミュージシャンを想定して作曲するのも役立ちます。例えば私が自分のトリオのために作曲している時は、誰を想定して書いているかわかるし、するとアイデアが湧きます。詳しくない楽器のために書く時はその楽器のことを知ること。音域のことだけでなく、どんなものなら演奏できるのか、できないのか等。そのミュージシャンと相談して、どんなものだと直観的に演奏しやすいのかを研究します。ギターを弾かない人はギター用にほとんど弾けないようなコードや、かなり直観的でないものを書くことがあります。私も自分が知らない楽器についてそういうことをやってしまいます。だから特定のアンサンブルのために作曲する時は、少しだけ勉強しましょう。
毎日、少しでいいから作曲してみること。考えすぎないこと。とにかくやってみる、それが作曲をはじめる最高の方法だと思います。考えすぎないこと。やってみて何か結果を生んでみること。その中に好きなものがいくつか見つかると思います。とにかく飛び込んでみましょう。
作曲のヒントになりそうなことがたくさん語られているように思いました。最近、脳内物質の働きを理解し、音楽生活に役立てるという記事を書いたのですが、そこで学んだことを考えると作曲のようなアイデア出し作業はセロトニンレベルが高い朝にやるのが良いような気がしました。午後3時〜5時頃だと脳が疲れていて「これはつまんないかな、ダサいかな」などという邪念が発生しそうです。
そしてすぐに結果を判断しない、というのも納得しました。時間を置くと印象が全く変わってくるものがあるので、「こんなもんダメだーっ!」と譜面を破り捨てたりファイルを消去したりせず、放置しておく。メアリー・ハルヴォーソン嬢のアドバイスはどれも実践的でためになります。
ところでこの動画中、ハルヴォーソン氏は”intuitive”(直観的)という言葉を何度も使っています。「直観」は彼女の音楽世界を理解するための重要なキーワードではないかと思ったりもしました。
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