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ジャズ漫画「BLUE GIANT」が予期せぬ傑作で感動した話

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以前から気になっていた漫画「BLUE GIANT」の全10巻を通読しました。Kindleで10冊まとめ書いができたので、Fire HDで読みはじめたところ止まれず徹夜で最後まで読んでしまいました。

以下、本記事にネタバレはありません。

ジャズ漫画「BLUE GIANT」が予期せぬ傑作で感動した話

作品の存在自体は知っていたものの今まで読んでいなかったのは、漫画でジャズの何を表現できるのか全く想像が付かなかったからなのですが、読み進めるにつれて「こ、こんな深いテーマの話だったのか!」と驚かされることになりました。

画中に登場する音符や理論の話などに少しヘンなところはあったものの、作品の世界観や物語全体の駆動力を損なうほどのものではなく(何様w)、むしろこの作品が持っている「軸」の強さを浮き彫りにして行くのが面白い。華麗な枝葉はなくても、立派な幹がある感じです。

その「軸」または「幹」は何かというと、私が個人的に「モーダルとコーダルの葛藤」と名付けているものです。「モーダル」とは、ここでは「情熱と本能と直観から生まれる歌」としましょう。「コーダル」とは、誤解を恐れずに単純化して言えば、そういう「原始的な歌」をより多くの人間に届けるための一種の掟、知性による枠組み、としましょう。

テナーサックスを吹く主人公「大」はこういう意味での「モーダル」を代表するような人間で、ピアノの「雪折」がコーダルな知性側の人間。この2人がそれぞれより自由になるために、お互いの力を必要とし、それを求めてぶつかりあい、成長しあっていくという、素晴らしい成長物語でした。

もともと自由な人間が、より大きい自由を求めて檻の中に入っていく。もともと檻の中にいた人間が、やはり自由を求めて外に出ていく。その2人が出会う。そして、そういう2人は私達みんなの心の中に常に同居していて、それはとても苦しい状態だけれども、ドラムの玉田がこれを象徴している(玉田は恐らくこの物語の語り手であると思われます)。

この漫画は大きい嘘がないところも良い。普通こういう漫画の場合、主人公はあらかじめ「選ばれた人間」だったりします。サックス奏者が主人公なら、たとえば実家が素潜り漁をやっていて子供の時から海中で息を止める訓練をしていたため肺活量がすごいことになっていてその結果素晴らしいプレイヤーになった、とか、実は「あなたのひいおじいさんは、ジョン・コルトレーンという人なのよ」みたいなガッカリ設定があると思うのですが、大はそういう人間ではない。ごく普通の人間。特に優れた資質を持っているわけでなく、たまたま聴いたジャズに感動して楽器をはじめます。これがいい。神話的な存在ではなく、たぶん私やあなたのような存在です。だから面白い!

とはいえ、その後の主人公のジャズへの情熱は常軌を逸していて、物語はほぼ彼の「情熱」だけを駆動力として前進します。この設定は、作者にとっても挑戦だったのではないかと思います。安心して物語を前に勧められる装置がありません。それはリスクの多い演奏に近い。だからこそ、この作品は感動を生み出せたのではないかと思っています。これは筆力があってこそ。第42話はセリフも説明も一切ゼロ、画だけで様々な感情を表現していくのですが、驚きました。

「BLUE GIANT」というタイトルも素晴らしい。読む前は、実は「なんて安易なタイトルなんだろう」と思っていました(すみません)。ブルーノートのブルーと、ジャズ・ジャイアントのジャイアントを足しただけか、と。でも、そうじゃなかった。これはアオハルの「青」が、赤よりも熱い「青」に至る過程なのです。いいタイトルだな、と思いました。

ただ、あまりに感動した作品だったからこそ私はひとつだけ文句を書きたい。それは第76話です。あんなエピソードは私は読みたくなかったし、作者の才能からすれば他の展開でもなんとかなったはず。とはいえ、考えてみればより悪い展開もありえたはずなので、この文句はやはり撤回しておきましょう。

ところでジャズを取り巻く現状への批判が多く含まれているのにも驚きました。ジャズ人気の低迷の中で多くを諦めた人々、選ばれたエリートがやる(べき)音楽だと思っている人。そういう人が登場します。でも、みんな愛情を持って描かれています。そして、すごくリアル。「あーこういう人いるいるw」の連発です。すごい。

全10巻でひとまず完結で、主人公・大のその後は「BLUE GIANT SUPREME」で読めるようです。今から続きを読みたくて仕方ないのですが、もう少しこの感動の余韻に浸っていたい。まだ読んでいない方、読みましょう。

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