ジャズギターでよく使われるコードを観察するシリーズ第4回目は、超基本的なコードを取り上げます。1970年頃に欧米で人々を熱狂させた有名なコードで、学名ジミヘヌム・パープルヘイゼウム。「ジミヘンコード」の俗称でも知られ、性格は陽気とも根暗とも言われています。メジャー系コードですが、#9テンションは見方を変えると短3度。陰陽のミックス。
誰でも知っているどうということのないコードですが、この記事ではジャズで習得必須のオルタード系フレーズとこのコードの関連を観察してみます。ジャズをはじめたばかりでオルタード系フレーズを弾きたい、というロック・ブルース系の方々にはこのコードフォームが入口になってくれると思います。
下の譜面のように、まず最初にこのE7(#9)を弾いてから、続く音列を弾いてみます。これはオルタード・スケールを利用した、歴史的にとても有名なフレーズです。
譜面はクリックかピンチで拡大します。
コードを弾いたあと、#9を押さえている小指は離さずにフレーズを開始し、E7(#9)のフォームを音がどのように通過していくかを観察すると面白いですね。あとこれは#11thの音が入っていないので完全なオルタード・スケールではないのですが、よく使われるフレーズです。b9th音はトニックの5度に解決します。解決先はメジャーでもマイナーでも可。
ゆっくりしたテンポでただ下るだけだとカッコ悪いと思うかもしれませんが、アップテンポでは普通に使われます。ジョン・スコフィールドの歴史的な名演”Softly as in the morning sunrise”にもまったく同じフレーズが出てきます。本当にそのまま登場します。
下はジョン・スコフィールド、パット・メセニー、パット・マルティノによるオルタードフレーズの例です。どれもこのE7(#9)の場所で弾けるように移調しましたが、全部上のコードと同じ場所で弾けます。すべて#9音の小指からスタートします。最初にジャラーンとE7(#9)のコードを弾いてからフレーズを弾くと音の意味が理解しやすくなると思います。
ジョンスコはナチュラル11thが入っていたり(それだけでモダンに聞こえる)、メセニーは3拍目のルートに向かって上下から接近していく感じ、マルティノはビバップの伝統的な3度へのクロマティック・アプローチが特徴的。どれも1小節だけでその人とわかる感じで、面白い!
最近のコンテンポラリー系ギタリストがいちばん上で紹介したようなオルタードのフレーズをそのまま弾くことはあまりないとしても、これはスタート地点として誰でも弾けないといけない音列なのは間違いないです。オルタードは世間的に「ジャズっぽい」と認知されているサウンドの1つで、ジャズ系のジャム・セッションに行くとひと晩に1度は似たようなものが聴こえてきます。
オルタード・スケールをメロディック・マイナー・スケールとして理解する
ところでこのE7(#9)のフォーム上でオルタード・フレーズを弾く時、もうひとつセットで見えておくと便利なコードフォームがあります。それは下のFmΔ7(Fマイナーメジャーセブンス)というコードです。下から1, m3, 5, M7という密集配置の普通のコード。
このFmΔ7にもう1音、9thというテンションを足して、アルペジオとして弾いてからE7(#9)を弾いてみます。すると、この2つのコードはほとんど同じ場所に生息していることがわかります。
そもそも「Eオルタード・スケール」とは、「Fメロディック・マイナー・スケール」を7番目の音から開始したものです。FmΔ7というコードは、このFメロディック・マイナー・スケールをコード的に表現したものと言えます。
Eオルタードを弾こうと思った時は、上のE7#9コードやEオルタード以外に、FmΔ7コードやFメロディック・マイナーで発想しても良い、というか、そういう覚え方のほうがむしろ後々かなりいろいろなものが見えてくるので、これは併せて覚えておいたほうが絶対に良いと思います。
ドミナント・セブンス・コードをマイナー系のスケールでフレージングするという考え方なので、マイナー・コンバージョンの1種とも言えます。このコンバージョンは本当に便利で、メロディック・マイナー・スケールはV7(alt)以外にも、X7(#11),Xm7(b5), XΔ7(#5)といったコードも表現できます。
下はE7(#9)のコードをジャラーンと弾いてそのオルタードなサウンドの残響に浸ってからEオルタード・スケール=Fメロディック・マイナー・スケールをフルに弾いてみた例です。このページのいちばん上で紹介したフレーズとの違いは、#11thという音が入っていることです。
今回の記事ではコードそのものというよりコードとスケールの関係が中心の話になりましたが、両者の関係は切って切っても切り離せないものなので、新しいコードを覚える時はそれがどんなスケールと関係があるのか考えながら覚えると良いことがあると思います。