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マイナー・コンバージョン、あるいは陰陽への道

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マイナー・コンバージョン (Minor Conversion) と呼ばれる有名なコンセプトがあります。

パット・マルティーノが、そういうアプローチ(方法論)で弾いている、と説明したことで一躍有名になった概念です。この概念の目的は、「全てをシンプルにする」こと。その具体的な方法は、「全てをマイナー系スケールに置換すること」。

実際マルティーノの演奏をコピー・採譜していると、どのフレーズもメロディック・マイナーやドリアンから発生しているのではないか、と思わされることが多いです。シンプルにすることの利点は、より直観的・直感的に歌いやすくなることでしょう。何事も複雑より単純なほうが良いはず。

これはある意味「ジャズやりたいけど何弾いたらいいかわからない、って奴はスケール一発で弾け」という話の延長線上。勿論その場合は例えばBbのブルースならBbブルーノート・ペンタトニックや、Bbドリアンを使ったりということですが、「単一のアプローチで取り組む」という点では共通しています。

しかし何故「マイナー」なのか。これは何となく「たまたま」ではないかと思うことがあります。マルティーノは実際にメジャー系の曲がそれほど好きではないらしく、”Giant Steps” をやらないのは自分がマイナー好きだからだ、と雑誌のインタビューで語っていたように思います(本当かな!?)

数年前から、いろいろな練習や演奏をしている際にマイナーとメジャーの判別が付かなくなるというか、それを区別することの意味がわからなくなることがあり、それは一体何だろうと考えることがありました。

当たり前と言えば当たり前の話なのですが、Gmで何かGmを想定したフレーズがあるとする。それはBbΔでもほとんどの場合サウンドします。GmΔ7的なフレーズならBbΔ#5(#11)と考えても何の問題もない。

Gm7- C7 altのフレーズがあるとして、その上の何処かでF#を弾くとする。それはGmのΔ7なのか、C7の#11なのか? バッキングのコード楽器が明示的にコードを弾いていない時、それは自分にとって何の音なのか?

マイナー・コードを仮に「陰」、メジャー・コードを仮に「陽」とします。その上で、格闘家ブルース・リーの次の言葉を読んでみます。

Yin-yang is not dualistic. – The common mistake of the Western World is to identify these two forces, yin and yang, as dualistic ; that is, yang being the opposite of yin, and vice verca….

陰陽(インヤン)は二元論的な何かではない。 西洋世界によくある過ちは、これらの2つの力、陰と陽を二元論的なものと考えてしまうことだ。つまり、陰が陽の反対であり、その逆もまた然り、という考えである….

Yin-yang – not yin and yang. – You cannot use the word “and” when speaking of yin-yang, as yin-yang is never two, but rather poles of one interconnected process.

「陰陽」であって「陰と陽」ではない。 – 「陰陽」について語る時、「と」という言葉を使ってはいけない。「陰陽」は決して2つのものではなく、1つの相互関連的なプロセスの、複数の極なのだ。

Just as in pedaling a bicycle; you cannot just push or not push; …. If you tried to pedal by just pushing – or by just releasing – you would get nowhere and would never get to enjoy the beauty of the scenery outdoors.

ちょうど自転車のペダルを漕ぐように。片方を踏んで、もう片方を踏まないというわけにはいかない。….単に踏むだけでは、あるいは単に足を離すだけでは、何処にも辿り着けないし、外の世界の美しさを楽しむことも決してできないだろう。

Striking Thoughts – Bruce Lee’s Wisdom for Daily Living

マイナーとメジャーの関係についてはブルース・リーによるこの「陰陽」の説明が当てはまると思いました。勿論、パット・マルティーノがこう考えているかどうかは分かりません(彼自身「陰陽」について様々なインタビューで語っているので、似たようなことを考えているような気はします)。

最近ギターの指板を眺めていて「これはDmの領域なのか、それともFΔの領域なのか」とは思いません。「これは『Dm = FΔ連合体』の領域である」と感じることが多くなりました(勿論練習の時は明示的に色々なものを区別して取り組む必要があり、その重要性は理解しているつもりですが…)

「マイナーでもメジャーでも、どっちもでいいよ」と思うことがよくあります。マイナーかメジャー、マイナーとメジャー、ではなく、「マイナー=メジャー連合体」。多分間違った方向には進んでいない…と思います。


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