ノルウェー出身のラーゲ・ルンドはアメリカにおける人種差別問題に少なからぬ関心を持っているようです。その彼はこのサイトのインタビュー（恐らく2015年）で「ジャズ」について次のような興味深い洞察を語っています（訳しにくい感じの口調なので若干意訳）。
ジャズを演奏しにやってきたヨーロッパの白人として、この音楽がブラック・アメリカン・ミュージックと形容されることに困ってしまう人々がいるのを見ると、いつも驚いてしまう。だって、ジャズは他の何だっていうんだよ（笑）。他の何処からやってきた音楽なんだ？（そうした態度は）明らかに間違っているよ。偉大なヒーローたちはみなブラック・アメリカン・ミュージシャンだ。
自分の一部分は、僕が（ジャズの）「ネイティブ・スピーカー」ではないことを知っているけれど、それについては気に入っているところもある。ジャズの一部分となって、何かをやれるとは思うけれど、僕の話し方にはもちろん「訛り」があるだろうとは思う。それを「（ジャズとは）別物の音楽さ」と呼んだり、「僕はジャズを新しい次元に引き上げた」とか「僕はジャズをわかりやすくしたのさ」なんて口にすることは、間違っている。繰り返すけれど「ジャズ」という言葉に意味はないんだ。多くの土地で、それは単純に、即興演奏をする、という意味になっている。でも、人が物事にレッテルを貼りはじめると、人々はそれについて所有権を主張しはじめたり、それとは関わりたくないと思うようになる。この辺から話がややこしくなってくるんだ。
ぼくが「ジャズ」として考えている音楽は何か – そういう議論に参加したいのであれば、そこには歴史があるということを知らないといけない。そこには一つの言語がある。そのことを無視して「あっそう、そんなこと知りたくないね、僕は自分の音楽をやりたいだけさ」と言ってしまうなら、同じ車輪を何度も発明し続けることになるし、ジャズから即興以外の要素を全部取っ払ってしまうことになる。だとするなら、なぜその音楽を「ジャズ」と関連付ける必要があるんだろう？
それは白人が様々なものを自分たちの所有物にしてしまうという、醜い行為になりかねない。それは本当に（ブラック・アメリカンの）気持ちを害するものだと思うよ。ジャズは明らかに、ヨーロッパ白人の音楽ではない。音楽は社会と切り離されるものではない。（…）1960年代と今はそんなに違っていないんだ（…）「人種差別の時代はもう終わった」と人は言う。そんなことは全くない。ブラック・アメリカンの大部分はそんなことは言わないと思う。そういうことを言うのは、白人だ。
僕が愛しているこの音楽は、特定の文化に由来している。だから、僕が知っている以上に、その文化に関係しているものがたくさんあるんだ。僕はこの音楽を愛しているし、自分の音楽を通じてジャズについて言及したり、それを理解したいから、そういうことと自分の音楽を無関係なものにすることはできないんだ。でも最終的に、演奏に出かける時は、そういうことは全然考えない。その時はただ、自分にとって正直な(honest)ものをプレイするだけだ。僕は必ずしも「チャーリー・クリスチャンありがとう！」と（演奏中に）考えているわけじゃない。もちろん彼のコピーはたくさんしたし（笑）、彼のことは大好きだけれど、自分が演奏する時は、その夜に聞こえたものや、共演しているメンバーとのあいだでワークしそうなものを弾くだけさ。
日本人の私達も「ジャズ」という言葉を何気なく使っているわけですが、「ブラック・アメリカ」の歴史や文化を意識することなく、単なる「即興演奏」を意味するのであれば、「ジャズ」という言葉を使うのは適切ではないのでしょう。マーケティング的に便利なのでこれからもずっと「ジャズ」という言葉は使われていくのでしょうけれども、それは白人による黒人文化の搾取、と基本的に同じことをやっている可能性がある、と意識しておく必要があるのだろうと思います。
先日「パット・メセニーが本気で怒ったあの事件を振り返る」という記事を書きましたが、もしかするとメセニーはKenny Gに「ブラック・アメリカンが苦労の末に生み出した果実を自己の所有物とした白人」の姿を見たのではないか、と、ラーゲ・ルンドのインタビューを読んで思ったのですが、皆さんはどう思われるでしょうか。
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